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術後のより良い生活を重視 おおもと病院(岡山市北区大元) 磯崎博司院長

磯崎博司院長

腹腔鏡下胃切除を行う磯崎院長(右)

 ―病院の特徴を教えてください。

 1977年に理事長・名誉院長の山本泰久先生が他の外科医4人とともに開院した、乳がんや消化器がんを専門とする病院です。病床数は現在51床。これまでに約6500例の乳がん、1750例の胃がんの手術などを行っています。食道や胃、大腸など消化管の内視鏡検査は年間6千件前後に上ります。

 病院機能としては、コンパクトでスピーディーな点に特徴があると思います。小さな所帯なので、その分、横のコミュニケーションが良く、動きが速いのです。乳がんが疑われる患者さんが来られると、検査態勢をすぐに整え1日で診断を付けてしまいます。マンモグラフィー検査やエコー検査をして、怪しいとなればコアニードル生検(組織診)などで診断を確定させます。術後の化学療法も当院で行っています。

 ―胃がんに対しては、センチネルリンパ節診断によって切除を最小限に抑える手術を実施していますね。

 胃がんの標準的な手術は、胃の3分の2以上の切除と周辺リンパ節の郭清(かくせい)とされています。がん細胞を全て取り除くのが目的です。しかし、広範囲に胃を切除した後は体重が15~20%も減ったり、ダンピング症状(食後に起きるめまい、冷や汗、腹痛、下痢)、逆流症状(胸やけ)などに悩まされることがあります。胃は、大きく残すほうが機能的には良いのですが、転移の状況が分からない場合、根治性が担保できないのが難点です。そこをカバーするのが、センチネルリンパ節理論による手術です。

 がん細胞は血液やリンパ液の流れに乗って別の臓器や器官に転移します。センチネルリンパ節は、がんが最初に転移するリンパ節のことです。手術中、がん組織周辺に色素を注入し、リンパ液の流れを追います。リンパ節の一部を採取して病理診断に回し、転移がないことが確認できれば切除範囲を小さくすることができます。広範囲の切除手術を受けた患者さんと比べ、より良いQOL(生活の質)が期待できるのです。

 ―センチネル理論に基づく手術をしている病院は、全国的にも数少ないと聞きます。

 もともとは2003年に金沢大学の三輪晃一教授=当時=が学会誌に発表した革新的な術式です。感銘を受けた私は独自に研究を続け、おおもと病院に着任してからは臨床応用を開始しました。胃の上部、噴門側にがんができたため、他の病院で胃を全部摘出しなければならないと言われた患者さんが当院に来て、センチネルリンパ節による診断で部分切除で済んだケースはいくつもあります。国内のワーキンググループが近年開発した胃切除後のQOL評価尺度「PGSAS(ペガサス)―45」では、センチネルリンパ節診断に基づく手術の有効性が数値的に示されました。ただ、高い技術と経験が必要で、標準治療としてはなかなか定着しにくいだろうとは思っています。

 ―乳がん診療についてはいかがですか。

 乳腺疾患の専門家である山本先生が開院した当院は、岡山における乳がん治療の老舗のような病院です。消化器外科が専門の私ですが、近く乳腺専門医の資格を取る予定です。乳がんについての論文も3本書きました。

 ―外科医を志したのは何かきっかけがあったのでしょうか。

 公務員だった父親が「手に職を付けなさい」「技術者になりなさい」と言っていたのが影響したようです。医師を志してからは、外科系と決めていました。1981年に赴任した大阪医科大学では、胃がんの大家として知られる岡島邦雄教授の薫陶を受けました。多くの手術に立ち会い、その手技を目に焼き付けました。岡島先生は同じ徳島県出身で、岡山大学医学部第一外科の先輩でもありました。当時の大阪医科大学一般・消化器外科学教室では甲状腺から乳腺、食道、胃、小腸、大腸、肝・胆・膵など幅広く扱っていて、多くの経験を積みました。1年間のパリ留学では肝臓移植も多数手がけました。外科医としての自信がつき、視野も大きく広がりました。

 ―今後のおおもと病院の展望を教えてください。

 私たちの仕事は病気を治し、元々の生活に近い状態に戻してあげることです。予後を含め、患者さんの一生を背負うような、責任の重い仕事です。だから、退院後の生活をどのように送っているのかなど、QOLをとても重視しています。当院は専門である乳腺疾患と消化器疾患について、患者さんのいろいろな相談に乗り、複数の選択肢が提供できるよう努力を続け、今あるブランドを築いてきました。それを今後も守り続けていきたいと思います。

 いそざき・ひろし 徳島城南高校、岡山大学医学部を卒業。1974年に岡山大学医学部第一外科入局。大阪医科大学一般・消化器外科学教室、パリ大学留学を経て大阪医科大学助教授、岡山大学医学部付属病院中央手術部助教授。2003年におおもと病院に入り、副院長。10年より院長を務める。

 ■おおもと病院

岡山市北区大元1丁目1―5
086―241―6888
 【診療科】外科、乳腺外科、消化器外科、胃腸内科、麻酔科、婦人科
 【病床数】51床
 【ホームページ】http://oomotohosp.jp/
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年10月19日 更新)

タグ: がんおおもと病院

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