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細胞投与でALS進行遅延効果 岡山大院・山下講師ら確認

山下徹講師

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科の山下徹講師らのグループは29日、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病・筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症させたマウスに、ヒトの骨髄から採取した幹細胞「Muse細胞」を投与すると、症状の進行を遅らせる効果があることを確認したと発表した。ドナー(提供者)のMuse細胞から、拒絶反応のない新たな治療法の確立につながる可能性がある成果という。

 ALSのマウス約20匹を、Muse細胞5万個を週1回のペースで静脈注射するグループと、しないグループに分けて検証。回転する棒やしがみつかせた金網から落下してしまう時間を計り、その運動能力を比べた。4週間後の時点では、注射しないグループは落下するまでの時間が平均で2~3割早まったが、注射したグループの運動能力には大きな変化はみられなかったという。

 注射したマウスの組織を調べたところ、脊髄に運ばれたMuse細胞の一部が、細胞の栄養補給などに関わるグリア細胞に変化していることを確認。ALS進行の要因とされ、筋肉の動きをつかさどる神経細胞に栄養を供給し、死滅を一定程度抑制していることが分かった。

 ALSの新たな治療薬の開発に向けては、慶応大が18年、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を活用した臨床試験(治験)をスタート。治療の選択肢を広げるため、山下講師らは治験の準備を進めていく。

 山下講師は「症状の進行を少しでも遅らせることがでれば、患者のQOL(生活の質)を向上させられる。できるだけ早く治験に着手したい」と話している。

 研究成果は英科学誌に掲載された。

 筋萎縮性側索硬化症(ALS) 厚生労働省指定の難病。原因は不明だが、筋肉を動かす神経が徐々に侵され、手足のしびれや脱力などの症状で始まる。進行すると寝たきりになって食事や呼吸が困難になる。通常、体の感覚や知能などは保たれるが、人工呼吸器による生命維持が必要になる場合が多い。根本的な治療法は確立されていない。国内の患者数は約1万人。

 Muse細胞 東北大の研究グループが2010年に発見した。皮膚や神経などに分化する能力を持つとされる多能性幹細胞の一つで、骨髄や血液、臓器などに存在し、傷ついた臓器や組織を治療する再生医療に役立つと期待される。拒絶反応はなく免疫抑制剤も必要ないという。心筋梗塞や脊髄損傷の治療に関する臨床試験が既に実施されている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年10月29日 更新)

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