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(8)脳卒中治療 津山中央病院脳神経外科部長脳卒中センター副センター長 小川智之

小川智之氏

 脳卒中という言葉は、脳に卒然(突然)、中(あた)る(身体に害を受ける)ということに由来します。脳の血管が詰まったり破れたりして突然発症する病気の総称で、主には「脳出血」「脳梗塞」「くも膜下出血」を指します。当院は、1次脳卒中センターの指定を受けており、岡山県北、兵庫県の一部を含めた広範な医療圏内の患者さんをほぼ一手に引き受け、脳卒中に対していつでも緊急手術が可能な体制を整えております。今回は、当院で行っている脳卒中治療について紹介させていただきます。

 ■脳出血

 出血が大きくて脳への圧迫がある場合には、早期に出血を取り除く手術を行います。当院では、ほとんどの症例で、直接脳内をみることができる管(内視鏡)を用いて手術を行います。頭蓋骨を開ける範囲は1円玉ほどの大きさで済み、患者さんへの負担も少なく、手術も1時間程度で終わります。

 ■脳梗塞

 脳へのダメージを少なくするためには、できるだけ早く詰まった血管を再開通させることが必要です。再開通させるには、詰まった血の塊を強力に溶かす薬(t―PA)を点滴する方法と、血管の中に直接管を入れて、詰まっている血の塊を掃除機のように吸ったり、細い針金のようなものでからめとったりして取り除く方法(血栓回収療法)があります。

 当院では、各部署の協力体制が確立しており、t―PA点滴および血栓回収療法をいつでも迅速に行うことが可能です。血栓回収療法は、岡山県北では当施設のみ、県内でも数施設でしか行うことのできない高度な治療法です。当院では、昨年1年間に43例の血栓回収療法を行い、まひや失語などの症状が劇的に良くなった患者さんが多数おられます。

 ■くも膜下出血

 くも膜下出血とは、脳を覆っているくも膜という膜の下に出血を起こしている状態です。脳動脈瘤(りゅう)という「こぶ(瘤)」のように膨らんだ脳血管の部位が破れていることが主な原因です。この破れた「こぶ」は、放置すればもう一度破れて(再破裂)、命にかかわる可能性が高く、再破裂しないように緊急手術を行う必要があります。

 手術は「開頭クリッピング術」と「血管内手術」があります。開頭クリッピング術とは、文字通り頭蓋骨を開けて、動脈の「こぶ」がある部位を直接小さな金属製のクリップでとめてしまう方法です。

 血管内手術とは、足の付け根の動脈からカテーテルといわれる細い管を動脈の破れた「こぶ」がある部位まで入れて、血管の内側からコイルと呼ばれる細くて柔らかい針金を「こぶ」に詰め込み、出血を起こさないようにする方法です。当院では、どちらの治療法も可能であり、患者さんの状態、「こぶ」の場所、形状などを検討して、治療法を選択しています。近年、患者さんへの負担が少ない血管内手術が増加傾向です。

 脳卒中に対しては、時間を置かず、治療をすぐに受けていただかなければならない場合が多いです。新型コロナウイルス感染症の拡大で大変な時期ではありますが、病院を挙げての厳重な感染対策などを行いながら、地域の方々が安心して、引き続き、高度で最新の脳卒中治療を受けていただけるように、日夜診療に励んでまいります。

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 津山中央病院(0868―21―8111)

 おがわ・ともゆき 岡山大学卒、岡山大学大学院博士課程修了。2019年10月より津山中央病院に勤務。20年4月より脳卒中センター副センター長。医学博士、日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2020年12月07日 更新)

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