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「頼りになる病院」五つの条件 2006正月特集 高原亮治上智大教授 大切な連携プレー

高原亮治上智大教授

 一 生命の危機に適切に対応してくれる

 二 病気別に専門高度な治療技術を持つ

 三 病院内の各診療科が連携して治療する体制がある

 四 患者の負担が軽い治療を行う

 五 治療、手術について情報公開する





 ―最初にあげられたのは心臓発作などで倒れ、生命が危ないという時ですね。これは重要です。

 高原 日本人の死亡原因は三分の一はがん、残りの三分の一が脳卒中と心臓病です。脳卒中、心臓病の発作で、いざと言う時、二十四時間対応する急性期基幹病院、高度救命救急センター、専門病院が必要です。すべてに対応できなくても病院ごとの役割を決め、心臓病、脳卒中と領域を限って投資すれば機能を持つことができます。

 ―そうなると心筋梗塞(こうそく)、狭心症、脳動脈瘤(りゅう)などの専門医がチーム交代で治療する体制ができます。

 高原 心カテーテル治療する循環器科、バイパス手術する心臓血管外科などの専門医チームが複数必要でしょう。

 ―今の指摘は大きな病院の機能ですが、地域の病院はどういう対応を。

 高原 ほとんどの病気は地域で対応できるし、またすべきです。中心になるのが、かかりつけ医、地域の病院でしょう。急場は基幹病院、救命救急センター、専門病院でしのいだとしても、やがては地域に帰ってくる。二十四時間対応で危機管理する病院と、日常のある意味では入院中より複雑な健康問題に対処するプライマリケアの連携、ネットワークが肝心です。

 ―「病気別に専門高度な治療技術を持つ」。こうであれば心強いです。

 高原 がんは死因の一位です。がんの診断や治療は専門化が進み、臓器別に手術医、放射線治療医、画像診断医、抗がん剤投与を行う内科医、さらにがん患者の専門看護師、経験豊富な薬剤師、検査技師らの幅広い専門スタッフの連携が必要です。この体制があって治癒率が上がる。地域の病院は、得意分野は一つでもよい。自分の病院や医師の能力だけで考えず患者本位にネットワークを活用することです。

 ―三番目に「病院内の連携した治療体制」をあげられました。

 高原 頭頸(とうけい)部がんは切除のみならず、機能をどう残すか、美的な処置も重要で耳鼻科と形成外科の連携がいる。乳がんは美醜を超えた女性のアイデンティティーにかかわり、患者の生活の質(QOL)も大きなウエートをしめる。延命年数ではなくQOLで調整をした年数が治療効果の判定に国際的に用いられる。医師は患者の考え、生活様式を尊重しなければならない。

 ―がんで高血圧や糖尿病の患者も多い。

 高原 高度な医療とは切除手術や放射線照射後、回復すると生活習慣病の管理も含めた全身管理が重要になる。関連する診療科や栄養、運動指導と連携するパス(手順)ができていることが大事。リエゾン精神医学といわれ、体が病んでいる時は心も病んでいる。全身と心と生活をトータルにケアするシステムが必要です。岡山には南部健康づくりセンターなど、がん、心臓病の患者の運動療法が医療管理のもとでできる全国にも数少ない施設があります。

 ―「患者の負担が軽い治療」これは助かります。大いに進めてほしい。

 高原 内視鏡治療、心臓や脳へのカテーテル治療は技術革新が目覚ましく、治療時間、入院日数も少なく、患者負担は大きく軽減されています。しかし、歴史が浅いだけに完成度や熟練度は医師によりばらつきがある。米国ではトレーニングセンターが発達している。シミュレーターで訓練しており、医療先進県岡山は設置を考えるべきだろう。

 ―情報公開。これは若い世代が重視しています。

 高原 最近、患者は自分が治療を受ける医師、病院の治療実績などデータを求めています。医師、病院も公表するところもあります。病気になり、最善の治療を受けたいと思うのはよくわかります。しかしデータの読み方は結構難しいといったことは承知のうえで利用するのが良いでしょう。

 ―手術の立ち会い、エックス線写真の提供、検査データのコピーなど、希望すれば、病院によっては可能になっています。

 高原 病院によっては手術の時、家族や関係者が立ち会うことができる。手術のビデオ映像、エックス線写真の持ち帰りも記録のデジタル化で容易になっています。検査データはコピーどころかグラフにして患者教育に用いられています。患者に病名、治療方針、期待できる効果とともに危険性や合併症を説明し、患者の意向に沿って治療を進めることは今や常識となっています。むしろ患者が医者の熱意に応え、理解したうえで当事者としての責任があるという自覚が求められています。

 ―先生は医療機関の機能を中立的に評価し問題点の改善を支援する日本医療機能評価機構の副理事長をされていますが。

 高原 いくら医師や看護師がすぐれていても、医療というものの行われる「場」「舞台」である病院のシステムが悪ければ、十分にその能力は生きてきません。医療はチームプレーです。みんなが決められたことを確実に実行することです。私どもの機構は病院の構造や機能、手順といったいわば、病院ドックとしてチェックしています。


私の意見

24時間救急受け入れ

角田 司 川崎医大付属病院長(倉敷市松島)


 大学病院としての専門高度な医療を通して地域に貢献したい。救急は24時間受け入れる体制をとっている。絶対に断らない。救命救急センター、ドクターヘリがあり、機動力は万全。救急医だけでなく、全国の大学病院初の脳卒中科、心筋梗塞、狭心症に対応する循環器科、心臓血管外科、小児救急など専門医が当直しており、難しい手術も十分こなす。がん手術は臓器別に専門医が最先端治療を行い、診療科の壁を越え手術する患者本位の治療体制。慢性疾患も対応しています。


がん治療専門に一筋

山本泰久 おおもと病院長(岡山市大元)


 1977年開設し診療科目は外科だけ。胃腸の消化器がん、乳がんの専門病院としてやってきた。自分が岡大病院でがん治療一筋にやっていたのでその経験を社会で生かそうと84床の専門病院をつくった。現在専門医は消化器がんが6人、手術は年間約120例、乳がんは4人で200~220例。医師も看護師も同じ手術、治療をするので、切除の手技、患者の症状の変化への対応も読め、治癒率は高く患者に貢献できる。薬、検査機器、人手もむだがなく、経営効率はよい。


真庭圏の医療拠点形成

金田道弘 金田病院長(真庭市西原)


 金田病院(199床)は近くの落合病院(同)と連携し真庭圏(真庭市など人口約5万5000人)の医療拠点を形成している。お互いの診療内容を尊重し患者を紹介し両病院で圏域内の約5割の救急患者を受け入れている。院長同士が話し合い「地域住民の安心医療のために」とライバル病院が共同歩調をとっている。がん、脳卒中、心臓病治療は岡大、川崎医大、岡山医療センター、津山中央病院などとネットワークを組む。24時間以内の重傷者転送は川崎医大付属病院が最多です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年01月01日 更新)

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