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第7部 あすへつなぐ (4) 連携パス 「見放され感」を軽減

退院を目指し洗濯を想定したリハビリに作業療法士と励む木村さん=5月、岡山光南病院

 「病院を移り、これからはリハビリに力を入れましょう」

 2月上旬。岡山赤十字病院(岡山市北区青江)に脳 梗塞 ( こうそく ) で入院していた木村保子さん(83)=同市南区藤田=に、医師は転院を切り出した。

 1カ月前、自宅から救急車で運ばれた。病状は落ち着いたものの、左の手足がまひ。痛みやはれもあったが、転院に木村さんや家族に不安はなかった。

 入院直後、医師から「地域連携診療計画書」(地域連携クリティカルパス=連携パス)を示されていたからだ。発症直後の急性期からリハビリ中心の回復期、そして自宅療養にいたるまで、複数の医療機関での今後の検査や治療の流れが一目で分かった。

 「治療の見通しが立ち安心できた」と長男の高博さん(58)。木村さんは岡山光南病院(同市南区東畦)に転院。リハビリに励み、つえをついて歩けるまで回復した。

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 回復期病床44床を持つ同病院の西崎進院長(62)はかつて、「前の病院に見放され、泣く泣くここへ移ってきた」と嘆く転院患者によく出会った。

 脳卒中は命を取り留めても後遺症があったり、リハビリが長期間になりがち。患者にとって病院を移る不安は大きく、説明が十分ないまま転院させられるケースもみられた。

 「だが、連携パスの導入後、患者から『見放され感』はほとんど聞かなくなった」と西崎院長。

 脳卒中(脳梗塞含む)の患者向け連携パスは岡山県が2008年、連携を目指す医師の協力で作成した。国も同年、導入した病院の診療報酬を新設。今年4月からは開業医にも拡大、普及を後押しする。

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 昨年4月には医療者用の連携パスもできた。作成したのは岡山光南病院や岡山赤十字病院など県南東部にある約70の医療機関が参加する「もも脳ネット」だ。

 医師、看護師、理学・作業療法士、ソーシャルワーカーらが、患者の治療やリハビリ内容、患者・家族に聞き取った自宅での生活状況などをCDに記録。転院時に患者に渡し、活用してもらう。

 「医師の紹介状は病気の情報だけだが、介護する家族や自宅の様子、生活するにはどんな動作ができないといけないかが分かる。リハビリの『終着点』が見え、計画を立てやすい」と西崎院長。

 同ネットは昨年4月~今年1月、急性期病院から回復期病院への転院患者のうち、9割以上の329人で二つのパスを利用。回復期の平均入院日数が86日と、全患者平均より4日短くてすんだ。

 岡山赤十字病院の井上剛脳卒中科部長(44)は「何より、他の病院、職種との垣根が低くなった」と話す。

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 倉敷市を中心に約20の医療機関が06年に発足させた「くらしき脳卒中地域連携の会」。代表世話人の一人、倉敷リハビリテーション病院(同市笹沖)の遠藤浩名誉院長(76)は「パスはあくまで道具。効果を上げるのは医療者同士の顔の見える連携だ」と指摘する。

 5月28日、同市であった集会では医師ら5人が治療の成果などを報告。地域の開業医も講師に招いた。

 「急性期、回復期をつなぐ病院の相互理解は進んだ。今後は在宅療養を円滑に行うため、開業医や介護事業者との連携が課題だ」


ズーム

 地域連携クリティカルパス 発症から治療、リハビリ、在宅療養まで、複数の医療機関・施設にまたがる病気別の診療計画。高齢者の寝たきり原因で多い大腿(だいたい)骨頸(けい)部骨折は2006年、脳卒中は08年、国が一定の基準を満たしパスを導入した病院の診療報酬を加算。今年4月には退院後の在宅医療を担う医療機関なども加算が認められた。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年06月21日 更新)

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