文字 

51 1級障害者 薬飲まねば肝臓廃絶

交付されたばかりの身体障害者手帳と入院中に高額療養費制度でお世話になった限度額適用認定証。移植患者の医療費負担を軽減する制度は段階的に整備されている

 生きていくにはお金がかかる。それはみんな同じなのだが、臓器移植患者は手術後もずっと高額の医療費を背負わねばならない。

 連載第9回でも触れたように、2008年6月29日に一時退院するまでの医療費(保険給付額)は1337万円余りに上ったが、10日後に再入院し、さらに医療費はかさんだ。結局、手術から1年間の総額は約1995万円。家を一軒建てられる金額になった。

 健康保険が適用され、病院で3割を支払った。高額療養費制度により、限度額を超えた部分は後日、払い戻しを受けられる。協会けんぽ加入の私の場合、ほぼ毎月83400円(所得により3段階)の自己負担だった。もちろん、差額ベッド料や給食費などが別途加算される。

 容体が安定し、外来通院に切り替わっても、医療費は重くのしかかる。私は月3万円前後の自己負担で済んでいるが、服薬量が多い患者は2倍、3倍の支払いに追われてきた。

 特に、幼くして移植した子どもたちは、ずっと将来への不安を抱えていた。胆道閉鎖症は子どもの難病(小児慢性特定疾患)に指定されており、移植後も無料または月数千円程度の自己負担でよいのだが、20歳になると助成は打ち切られる。

 日本で生体肝移植が始まって20年。今後、成人を迎えるレシピエントがどんどん増えてくる。私たちは原則として生涯、高額の免疫抑制剤を飲み続けなければならない。進学、就職、結婚…。医療費は人生の節目ごとに重い足かせになる。

 「胆道閉鎖症の子どもを守る会」は、移植の道を選択しない患者も含めて成人の難病(特定疾患)の対象に追加し、成人後も救済するよう、厚労相に要望書を提出していた。

 今年4月、要望の一部は違った形で 容 ( い ) れられた。重度の肝機能障害患者に対し、身体障害者手帳が交付されることになった。子ども、成人の別なく、移植後、免疫抑制剤を服用していれば1級障害者に認定される。

 専門家による厚労省の検討会は、移植によって日常生活に支障のない状態に回復しても「抗免疫療法を実施しないと再び肝機能廃絶の危険性がある」として、私たちを障害者と認定することが適当と判定したのだ。

 1級障害者の医療費は原則1割の自己負担となる。軽減はとてもありがたいのだが、レシピエント仲間に尋ねると、障害者と呼ばれることにはみんな複雑な思いのようだ。

 私たちは社会の理解によって「生かされて」いる。何度も強調してきたように、移植は極めて「社会的な」医療なのである。

 詳しくは触れないが、連載第26回で取り上げた肝がんの移植適応を左右する「ミラノ基準」の解釈をめぐり、手術後に健康保険適用を却下され、突然、数百万円の自己負担を請求された方もいる。

 経済的な理由で命をあきらめない、みんなが平等に挑戦することができる社会を実現することこそ、「命を守る」政治の役割だと思う。障害者手帳を取り出すたび、その意味をかみしめたい。



メモ

 身体障害者手帳 身体障害者福祉法に基づいて交付される。視覚、聴覚・平衡機能、音声・言語・そしゃく機能、肢体不自由とともに、内部障害として心臓、腎臓、呼吸器、ぼうこう・直腸、小腸の機能障害、HIVによる免疫機能障害が対象となっている。今回、厚労省の省令により、肝臓機能障害が追加された。移植レシピエントでなくても、肝機能検査の重症度分類で重度の状態が続いていれば、1級から4級の障害者に認定される。新たに全国で3万~5万人が対象になると推定されている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2010年06月21日 更新)

ページトップへ

ページトップへ