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(3)「低侵襲手術」を支える麻酔科医 岡山市立市民病院診療部長 木村雅一(麻酔科)

木村雅一氏

 手術に伴う痛みや出血などのストレスは、手術中だけでなく手術後の回復にも大きな影響を及ぼします。麻酔科医はそうしたストレスから患者さんの心身を守り、手術が安全に行えるように全身状態を良好に保っています。手術前に「手術より麻酔が怖い」と言われる患者さんもおられます。今日は周術期の麻酔科医の関わりについてお話しします。

 「断らない救急医療」を掲げている岡山市立市民病院の手術室では、予定手術と緊急手術を併せて年間約2700件の手術が実施され、多くの手術が全身麻酔で行われています。

 予定手術を受けられる方は入院前に麻酔科外来での術前診察を受けていただきます。入退院管理支援(PFM)センターの協力を得て、麻酔科医が病状や検査結果、アレルギーの有無、服用されている内服薬など、あらかじめ患者さんの全身状態を把握し、病歴や体調の問診、麻酔方法の説明、絶飲食時間や内服薬の注意などを行います。手術室看護師からも手術室の様子や術後の回復を早めるための禁煙や口腔(こうくう)ケアについて説明があります。

 低侵襲手術の進歩に伴って手術適応が広がり、高齢の方はもちろん心臓や呼吸器など重い基礎疾患を持つ患者さんの手術が増えています。麻酔、手術が可能か判断して術前に合併症の治療をしていただいたり、場合によっては安全のために手術を延期または中止してもらったりすることも麻酔科医の重大な責務です。

 麻酔科医は患者さんが手術室に入室されてから退室されるまで心電図や血圧計、パルスオキシメータなどの生体情報モニターとともにずっと患者さんの容態を見守ります。手術する医師とコミュニケーションを取りながら全身状態の変化に対応していきます。扱う薬剤は、輸液、輸血、静脈麻酔薬、吸入麻酔薬、局所麻酔薬、オピオイド鎮痛薬、筋弛緩(きんしかん)薬、昇圧薬、降圧薬など多種類に及びます。手術が終了すると麻酔薬の投与を止めて15分程度で意識が回復してきます。

 低侵襲の腹腔鏡(ふくくうきょう)手術でも手術後の痛みや吐き気、人工呼吸の管による、のどの違和感などがあることがあります。手術中から各種の痛み止め、局所麻酔薬を多角的に使用して、術後の痛みに備えていきます。患者さん自身がボタンを押して痛み止めの薬を調節するPCAポンプを使う場合もあります。適切に十分な鎮痛を行うことで手術後の機能回復を促せます。

 院内には医師、看護師、薬剤師、リハビリ技士、管理栄養士、医療ソーシャルワーカーなど多職種からなる緩和ケアチームがあり、麻酔科医も所属しています。主治医や病棟看護師と連携して痛みや呼吸困難感、全身倦怠感などの身体症状の軽減、心理的問題や意思決定の支援などをサポートしています。

 今回開設された「低侵襲手術センター」は多職種の関わりに支えられており、麻酔科医もその重責の一端を担っています。患者さんとご家族に安心して受けていただける医療を提供していきたいと思います。

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 岡山市立市民病院(086―737―3000)

 きむら・まさかず 岡山大学医学部卒業。岡山赤十字病院、岡山大学病院などを経て1992年岡山市立市民病院入職。2017年4月から現職。日本麻酔科学会麻酔科認定指導医、日本専門医機構認定麻酔科専門医。医学博士。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年02月01日 更新)

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