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(1)肝臓がんの外科的治療~からだにやさしい肝臓手術もあります! 岡山済生会総合病院外科主任医長 児島亨

児島亨氏

 肝切除術は肝臓の悪性腫瘍に対する治療の一つの柱です。「からだに負担の大きい大手術」の代名詞のような存在であった肝臓手術ですが、「からだにやさしい肝臓手術」もできるようになってきました。今回は「からだにやさしい肝臓手術」についてご紹介いたします。

 (1)腹腔鏡下肝切除術の導入

 さまざまな臓器の手術において行われている腹腔鏡(ふくくうきょう)手術(内視鏡手術の一種)ですが、肝切除術に応用されるようになったのは比較的最近のことです。その理由はいくつか考えられますが、肝臓が出血しやすい臓器であることと、手術手技が難しいものが多いことが大きな理由です。

 腹腔鏡手術ではおなかの中(腹腔内といいます)に炭酸ガスを注入し、おなかを膨らませた状態で、ビデオスコープと細くて長い手術道具を腹腔内に挿入し、モニター画面を見ながらおなかの外で手術操作を行います=図1。基本的には手術器具を挿入するだけの切開ですみますので、一つ一つの創(傷)は小さく痛みも少ないです。

 開腹肝切除術と腹腔鏡下肝切除術の手術創の比較を示します=図2。腹腔鏡下手術では創が非常に小さいことがご理解いただけると思います。開腹肝切除術は創の大きな手術の代表的なものであり、ときに右の肋骨(ろっこつ)を一部切除することも必要であるため、術後の痛みが長く続くことがありますが、腹腔鏡下手術ではそれがありません。

 (2)肝切除シミュレーション

 腹腔鏡手術では開腹手術と異なりモニターからの視覚情報だけになるため、解剖把握が困難になるという欠点があります。その欠点を補う目的で術前に行った造影CT検査画像をコンピューターで解析し、3D構築した肝臓モデル=図3=を作成し、手術シミュレーションを行っています。画像診断機器とコンピューターの進歩によって可能となりました。実際の腫瘍の位置を把握したり切除肝臓の想定体積なども計測できるようになり、手術の安全性が向上します。こういった工夫により開腹手術とほぼ同等の手術の質を担保できるようになりました。

 (3)腹腔鏡下肝切除術のメリット・デメリット

 腹腔鏡下手術の最大のメリットは手術創の小ささです。創が小さいことで、痛みも軽くなり、手術前の生活に戻ることが開腹手術と比較し早くなります。もちろん退院も早くなります。また順調に手術が終わった症例では開腹手術よりも出血量が少なく、再肝臓手術が容易となるといったメリットもあります。デメリットの最大のものは、手術難易度が上がるということです。また腫瘍が小さかったり、数が多かったりすると手術中に見つけにくいというデメリットもあります。

 実際には、腫瘍の位置や数などさまざまな条件を考慮し、腹腔鏡下手術を行うか開腹手術を行うかを決定します。腹腔鏡下肝切除の中のいくつかの術式についてはその難易度が高いため、手術施行医と手術実施施設に特定の条件が必要とされており、病院選択には注意が必要です。

 最も大切なことは安全に手術を受けていただくことです。医師から十分に説明を受け、納得して手術を受けていただきたいと思っています。

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 岡山済生会総合病院(086―252―2211)

 こじま・とおる 岡山大学医学部卒。岡山大学病院、広島市民病院、国立がん研究センター等での研修を経て2009年から岡山済生会総合病院勤務。日本外科学会専門医・指導医、日本肝胆膵外科高度技能専門医、日本内視鏡外科技術認定医、岡山大学臨床准教授。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年02月01日 更新)

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