文字 
  • ホーム
  • 岡山のニュース
  • 【解説&主張】命を救うAED一般解禁1年半 普及進み岡山で500台 低い市民の認識、啓発課題

【解説&主張】命を救うAED一般解禁1年半 普及進み岡山で500台 低い市民の認識、啓発課題

AED講習が盛り込まれた日赤県支部の救急法指導員養成研修=岡山市内

岡山県庁1階に設置されたAED

 心臓が止まった人に電気ショックを与え、命を救う「自動体外式除細動器(AED)」。医療従事者以外の一般の人でも使えるようになって一年半。全国的に普及するなか、岡山県内でも国体を機に、公共施設を中心に約五百台と設置が進んでいる。一方、費用が高いなどから交通機関や学校の大半は未設置で、一般市民の認識も低いのが現状。設置場所や使い方を知らないといった声が目立つ。いざという時に救命手段が生かせるよう、普及啓発の徹底が求められている。

 AEDは、心臓が細かく震え血液の流れが止まる「心室細動」を起こした人に、電気ショックを与えて細動を取り除き、心臓の動きを正常に戻す医療機器。

 四月から、日赤の一般向け救急法講習にAED講習が加わる。このため昨年十二月中旬、岡山市内で開かれた日赤県支部の救急法指導員養成研修では、指導員があらゆる状況を想定した研修を積んだ。

 「会社で、同僚が突然倒れました。意識、呼吸なし。AEDは職場に設置されています。さあ、始めてください」

 大声で周囲に助けを求め、人工呼吸、心臓マッサージをしながらAEDを待つ。音声案内に従い電気を流す電極パッドを体に張ると心電図を自動解析。細動を取り除く除細動が必要かどうか機械が判断し「放電します。患者から離れてスタートボタンを押してください」などと促す。除細動が必要なければ間違ってボタンを押しても電気は流れない。参加した真庭市の公務員男性(40)は「操作は簡単だが使ったことがなければ、いざという時にできないと思う。心肺蘇生法と合わせしっかり広めたい」と話す。


救命に不可欠

 AEDは、米国では早くから広く一般に普及しており、個別に購入する家庭もある。国内では、高円宮さまがスカッシュ練習中に倒れ急逝したことなどを背景に関心が高まった。

 二〇〇四年七月、厚生労働省が医療従事者以外の一般の人にも使用を認め導入がスタート。昨年開催された愛知万博では、会場内にAED約百台を設置し四人を救命している(博覧会協会)。

 心停止は、一分経過するごとに蘇生率が7~10%低下する。五分で50%、七分では30%に下がる。岡山県では救急車到着まで五~十分かかるケースが50・6%(〇三年度)。「除細動までの一分一秒が蘇生率に影響する。救急車到着までのAEDは救命に不可欠」と岡山大大学院医歯薬学総合研究科の氏家良人教授(救急医学)は言う。

 津山工業高では昨年二月、運動場で部活動中の生徒が突然倒れた。教諭が人工呼吸と心臓マッサージを施し、三~五分後に救急車が到着。救急救命士がAEDを使い生徒は救われた。「まさに迅速な心肺蘇生法とAEDで命が救われたケース」と作州にAEDを広める会代表の薄元亮二・津山市医師会理事。

 宮田克己教頭は「元気だった生徒が突然倒れた。いつ、どこで、だれの身に起きても、尊い命を救える体制をつくらなければと学校で話し合いAEDを独自に購入した」と話す。


鈍い交通機関

 岡山県は昨年五月、AED普及促進連絡会(事務局・県施設指導課)を設置。県庁や空港などに置いたほか講習会を開くなど普及啓発を進めてきた。市町村に購入費用の二分の一を負担する補助金制度をつくり働きかけ、県教委は養護学校や看護科を持つ高校に配備を進めた。

 民間の動きも目立つ。医療機関、大型デパートのほか昨年、OSKスポーツクラブが県内の全八クラブに設置。パチンコ店を経営する三永(倉敷市)も県内九店舗すべてのカウンターに配備した。

 一方、AEDは一台三十万円前後と高価。交通機関の動きは鈍い。JR岡山支社では「設置予定はない」とし、県バス協会、県タクシー協会でも設置情報はないという。あるタクシー業者は「高額なので行政の補助がなければ購入は厳しい」と打ち明ける。小中学校でも目立った動きはなく岡山市教委は「小中学校の設置はない」という。

 国内では、震災を経験した兵庫県の取り組みが活発で台数は千台を超す。神戸市は、まちかど救急ステーション事業に取り組み、AEDを置き救急法講習を学んだスタッフのいる場所に設置を知らせるステッカーを掲示、観光案内所に設置状況を表にしたちらしを置いている。

 同県で普及啓発に努める河村剛史・河村循環器病クリニック院長(神戸市)は「AEDの設置の広がりは大切だが、置くだけでは駄目。目の前の人を救うという強い気持ちで実際に使えなければ意味がない。命の教育が大切」と訴える。救命の好機を無駄にしないため、地域全体で救命の輪を広げることが欠かせない。


ズーム

 AED AutomatedExternalDefibrillatorの略。縦、横20センチ、厚さ10センチ、重さ3キロ程度で持ち運びしやすい形になっている。心臓を挟む形で、右鎖骨下と左脇の下付近の2カ所に電極パッドを張り付けると、機械が自動的に心臓の状態を把握し電気ショックをかけることができる。AEDの使用に関する救急法講習は、日赤県支部、最寄りの各消防署が実施している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年01月09日 更新)

タグ: 健康医療・話題

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ