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津山中央病院のTAVI認定施設で治療開始 岡山県北初 心疾患患者の救命、生活改善期待

津山中央病院のハイブリッド手術室で初めて行われたTAVI=2月1日(津山中央病院提供)

術後の経過を話し合う(左から)山中俊明医師、安東知之さん、松本三明医師=2月8日、津山中央病院

 津山市川崎、津山中央病院は、重症の大動脈弁狭窄(きょうさく)症に有効な低侵襲治療「TAVI(タビ)(経カテーテル的大動脈弁置換術)」の認定施設となり、2月から治療を始めた。岡山県北では初めて。それまで県内にあった三つの実施施設はいずれも県南だった。高齢化が進む中、心疾患対策は地域医療の大きな柱。とりわけ県北ではそのニーズが高い。体への負担が少ないTAVIを開始したことによって、これまで外科手術での治療が難しかった患者の救命や生活改善が期待できる。

 認定施設になったのは1月15日付。2月1日には、大動脈弁狭窄症の80代男性と90代女性にTAVIを実施した。心臓血管外科主任部長の松本三明医師(心臓血管センター長)と、ドイツに2年間留学してTAVIを学んだ循環器内科部長の山中俊明医師(心臓血管センター心臓弁膜症治療部門長)が、麻酔科医や放射線科医らとチームを組んで治療に当たった。

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 大動脈弁は、全身に血液を送り出す心臓左心室の出口にある、薄くしなやかな3枚の弁。血液が出るときは大きく開き、その後は逆流しないようにしっかり閉じる仕組みになっている。

 大動脈弁狭窄症は心臓弁膜症の一種で、加齢などによる動脈硬化が主な原因だ。石灰化して弁が硬くなり、開きにくくなるため血流が妨げられる。多くの場合、自覚症状はないが、狭窄の度合いが進むと胸の痛みや失神、息苦しさなどの症状が出るようになる。

 高齢化によって患者は増えていて、山中医師によると「80歳以上の7~8%が罹患(りかん)し、症状が出た後、放っておくと2~5年で死亡することが多い」と言う。

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 大動脈弁狭窄症の治療は外科手術とTAVIがある。薬による対症療法もあるが、根治はできない。

 外科手術は開胸して傷んだ弁を取り除き、人工弁を縫い付ける。長く実績を積み重ねているため安定性のある治療だが、胸骨を切って胸を大きく開き、人工心肺装置を使って心臓の動きをいったん止めるため、体への負担が大きい。体が弱った高齢者や他に重大な疾患がある場合にはリスクは高く、手術による治療を断念せざるを得ない場合は少なくないという。

 一方、TAVIが国内で始まったのは2013年から。開胸することなく、太ももの付け根などを小さく切開し、カテーテルを血管に挿入して行う。小さく折りたたんだ人工弁をカテーテルを通して大動脈弁の位置まで運び、狭くなった弁をバルーンで押し広げて人工弁を密着させる。弁を正確な位置に隙間なく縫い付けられる開胸手術に比べると不確実性はあるが、人工心肺を使わず、傷もごく小さいので体への負担が小さいのがメリットだ。

 術後は心臓の問題が解消されているので、合併症さえなければ術前と同等か、むしろ良い状態でリハビリに取り組め、早期の社会復帰につながる。

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 津山中央病院に2015年に赴任した山中医師は当時を振り返りながら、「県北では高齢者の弁膜症治療が非常に重要だ」と強調する。家庭や地域で重要な役割を果たしている高齢者が多い一方、心臓疾患などによる入院患者の平均年齢は、県南に比べ10歳ぐらい高い。外科手術による治療が難しい場合、TAVIができる県南の施設に紹介しようとしても、「津山を離れてまで治療は受けたくない。津山でなら受ける」と話す患者もいた。

 こうした声に応えるため、津山中央病院は16年ごろから準備を始めた。

 TAVIの実施施設認定を受けるには「経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会」が定めた、手術実績や専門医の数、施設整備などの基準をクリアしなければならない。

 山中医師は18年4月から約2年間、ベルリンにある心臓疾患専門病院「ブランデンブルグハートセンター」に留学し、約千例のTAVIを経験した。津山中央病院は、血管のエックス線画像がリアルタイムに確認できるハイブリッド手術室を19年に整備。昨年4月に施設認定を申請し、新型コロナウイルスの感染拡大による審査の延期もあったが今年1月、認定を得た。

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 TAVIの第1号になった安東知之さん(84)=津山市=は昨年5月、田植えが済んだころから息切れがひどくなり、しんどい思いをしていた。津山中央病院で検査を受け、重症の大動脈弁狭窄による心不全と診断された。外科手術とTAVIのメリット、デメリットの説明を聞いた安東さんは、84歳という年齢もあってTAVIを選択した。

 1月28日に入院し、手術時間は1時間半ほど。術後、今までのような息切れや胸の苦しさがなくなったという安東さんは2月9日の退院前日、「こんなに楽になるとは思わなかった。日常生活をきちんと、普通に送りたい。皆さんと会話をしたり喫茶店に行ったり。田んぼは80アールほどあるので今年もコシヒカリを作りたい」と笑顔で言う。

 松本医師は「県北では、多くの高齢者が何らかの疾患を複数抱えながら生活している。中でも心臓疾患はつらい毎日を送らなければならない。外科手術に加えTAVIが治療の選択肢の一つに加わることで、より多くの患者さんの命を救い、より良い生活が提供できれば」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年03月01日 更新)

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