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(2)無断配信やマスク拒否

森脇正弁護士

森定理病院事務部参与

 一部患者の問題行動や医療事故など、病院内ではさまざまなトラブルが起きている。加えてコロナ禍によって現場の負担は増し、感染などをめぐって訴訟の提起も懸念されるようになった。病院が抱えるさまざまなトラブルにどう対処すればいいのか、医療現場の分かる弁護士が回答する。

<質問>

 ケース1 保健所の紹介で発熱の男性患者が深夜に来院。新型コロナウイルス感染症の疑いはなく、既に他の医院を受診し抗菌薬・解熱剤が処方されていた。点滴の後、自宅で経過をみるようにと説明したが、患者は入院を要求。スマートフォンを取り出し、大勢が聞いている旨を言った。来院後の状況を外部にライブ配信していた様子。スマホからは「大勢が聞いている」「熱があるのに家に帰すのか」との声もした。配信を切るよう求めたが聞き入れず、入院を口にする。

 ケース2 患者の付き添いで来院した男性がマスクをしていなかった。職員が院内に掲示してある「患者の責務」を理由に着用を求めると、「自分は患者じゃない、自由だ」「診療を拒否するのか」と大声で反論。ボイスレコーダーを手にしていた。前回も同様のことがあった。

<回答>岡山弁護士会 森脇正弁護士

ケース1 信頼関係つくれず

 撮影や録音およびライブ配信等が医療機関に無断で実行されたとしても、それ自体を直接に規制する法律上の定めはありませんが、病院の管理者には「施設管理権」があります。

 加えて、録音や撮影もしくはライブ配信される側には基本的人権があり、その人権が侵害される可能性があります。特に撮影には肖像権やプライバシー侵害の問題が生じます。従って病院内での撮影、録音あるいはライブ配信を病院が拒否しても問題はありません。

 ご質問の患者は、病院でのやりとりを無断で外部にライブ配信することで、病院に圧力をかけようとしているとも考えられます。業務を妨害しかねない行為と言えます。病院の強い禁止要請があってもこのような行為を続けるような患者と病院との間には、医療契約の基礎である信頼関係が形成できないというべきです。病院はこのような患者との医療契約あるいは入院契約を締結する義務はありません。医師法19条第1項の診療拒否の「正当事由」に該当するというべきです。

ケース2 院内訪問の禁止を

 現在、各医療機関は、新型コロナ感染防止に最大の努力を払っています。感染防止の方法の一つとして、来院者全てにマスクの着用や検温、あるいはアルコール消毒液による手指消毒の実施を要請することは、その必要性、効果からいって、広く社会一般に容認されています。無症状で自覚のない感染者が多数いることも、感染拡大の一因であるといわれています。

 このような背景の中で、病院内でのマスク着用を拒否する行為は、場合によっては、ウイルスを排出する感染源であると自ら宣言している、そう周囲に受け取られても仕方がありません。他の患者、病院職員のためにも、このような人物の院内訪問を禁止することが望まれます。当然のことながら診療の拒否でもありません。医療機関には「正当事由」があります。

【現場の視点】不当な要求には応じない
川崎医科大学総合医療センター 森定理病院事務部参与


 病院は、病気やけがを抱えた人びとが体と心を癒やす場です。安全と安心が保障されなければならず、心が乱されるような場であってはなりません。患者さんそれぞれの事情には、できる範囲での配慮はしますが、不当な要求に対しては他の患者さんのためにも応じるわけにはいきません。病院内での大声や暴力的な行為があれば、診療をお断りする場合もあります。

 最近では、スマートフォンなどの通信機器の発達で、病院職員のプライバシーが脅かされるような事態も起きるようになりました。こうした状況は、ただでさえ新型コロナへの対応などで神経質になっている病院職員に不当な圧力をかけるような行為で、許されるものではないと思います。

 社会的な施設である病院における安心・安全は、病院職員だけでなく、患者さん、付き添いの方々、地域の住民、関係するみんなで守るべきものです。その大切さを考えていただきたいと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年04月05日 更新)

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