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(5)心不全とは 心臓病センター榊原病院循環器内科部長 林田晃寛

林田晃寛氏

 心不全とは心臓の機能が悪くなって、臓器が必要とする循環血液量が足らなくなる(供給不足)、もしくは肺や体循環に血液が停滞する病態(うっ血)です。症状としては、息切れ、むくみ、疲れやすさなどがあります。

 心不全というと心臓の動き(収縮)が悪くなることのように思われますが、心臓の動きが良いにも関わらず、心不全になるという病態もあります。心不全において、心臓の動きが悪くなる場合とそうでない場合は半々くらいの割合であると言われています。なぜ心臓の動きは良いにも関わらず心不全になるかというと、心臓の拡張(ひろがり)が悪くなり、肺や身体にうっ血がおこりやすいためです。

 息切れや、浮腫があり、心不全を疑った場合、簡単に施行できる検査としては、胸部エックス線写真、心電図、採血があります。胸部エックス線写真では、心拡大、肺うっ血、胸水を認め、心電図では心房細動、徐脈や頻脈などの所見を認めます。採血では、心臓にどの程度負担がかかっているのかを示すBNP、NT―proBNPの測定が有用です。BNPは100pg/ml、NT―proBNPは400pg/mlを超えた場合、心不全の可能性が高く専門病院の紹介が推奨されています。心エコー図検査は、心臓の動きと血行動態を確認するだけでなく、弁膜症や心筋症、虚血性心疾患の合併有無を検索することができます。

 心不全の治療は、予防と早期治療が重要です。心不全に至る症例の多くは、高血圧、糖尿病、脂質異常などの生活習慣病があり、これらの疾患があるだけですでに心不全予備軍として治療を開始することが勧められています。動きが保たれた心不全には、降圧薬や利尿薬を中心に症状の改善を、動きが低下した心不全にはβ遮断薬、ACE阻害薬やARBを中心に加療します。

 十分な薬物療法と同時に、心不全になった原因について精査し、治療します。薬物以外の治療法を、非薬物的治療といい、さまざまな方法があります。虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)が原因であればステント留置術などで心筋虚血の解除を、心房細動などの不整脈が原因であればカテーテルアブレーションを、弁膜症が原因であれば手術適応の有無を判断します。

 心臓リハビリテーションも非常に重要です。寝たきりや足腰が悪い人では心不全の症状が悪化することが多く、しんどい症状が取れにくいと言われています。そのため、積極的に心臓リハビリテーションを行い、全身運動と骨格筋を使用することで、代謝の改善を行うことにより、心機能が変化しなくても症状が改善し快適な生活を送ることが可能になります。

 いったん症状が改善しても、内服が不規則であったり、医療費の問題を抱えていたり、医学だけでは解決できない問題も多いです。そのため、医療者全体によるチーム医療で、幸せな療養生活が送れるようサポートすることが重要です。

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 心臓病センター榊原病院(086―225―7111)

 はやしだ・あきひろ 九州大学医学部卒。宮崎県立宮崎病院、下関市立中央市民病院、九州大病院、福岡東医療センター、川崎医科大付属病院などを経て、2014年4月から現職。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年04月05日 更新)

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