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一般向け医療書籍7冊出版 岡山西大寺病院 小林直哉理事長

小林直哉理事長

 岡山西大寺病院(岡山市東区金岡東町)の小林直哉理事長は、人工透析や在宅医療、がんなどをテーマとした一般向け書籍を次々と執筆。2016年から今年3月までに7冊を出版した(いずれも現代書林)。地域住民の多くが高齢となる中、持病があったとしても前向きに生活できるよう、病気の特徴や治療のポイントを分かりやすく解説。AI(人工知能)を活用した地域医療の将来像も描いている。執筆の動機や本にかける思いなどを聞いた。

 ―これまで出版を続けてきた、その原動力は何でしょうか。

 一人でも多くの人に病気や健康に関する正しい知識を持ってもらい、日々の生活を見直してほしいからです。毎日のちょっとした努力の積み重ねが、健康維持にはとても重要です。不安になったり調子が悪くなったりしたときは、われわれが全力でサポートします。元気で過ごせる健康寿命をしっかり延ばして、最後に振り返ったとき、「ああ、充実した人生だった」と思っていただけるようなお手伝いができたらいいなと思っています。

 ―高齢になると慢性疾患を幾つも持っている場合が少なくありませんね。

 私は週に4回外来診療をしていますが、患者さんの多くが高齢です。年を取ると、さまざまな疾患が起きてきます。完治できるものばかりではなく、ずっとつき合っていかなければならない疾患もあります。自分の病気がどのようなものなのかをある程度理解し、療養生活をどこで、誰と、どんな形で過ごしたいのか、そうしたことを家族や医師、看護師らとしっかり話し合っていただきたいのです。出版した7冊が、そのためのツールになればと思っています。

 だから過度な期待を抱かせるわけにはいきません。例えば、人工透析の導入には覚悟が必要で、患者さんの努力と周囲の人びとの協力が欠かせないのです。医療や介護だけで全てがカバーできるものではありませんし、本にはそうした実情をありのままに記しました。私たちも含め、みんなで楽しく、正しい努力をしましょうと語りかけています。本は私たちと患者さんを結ぶコミュニケーションツールでもあります。

 ―診療で忙しい中、資料集めや執筆はどのようにしているのですか。

 毎日少しずつ作業を進めています。患者さんとの会話や外来での出来事、学会や新聞、ニュースなどから情報を集めてパソコンに入れ込んでおきます。日記みたいなものです。テーマごとにフォルダーを作って整理をして、資料がある程度たまるとストーリーを考えます。すると第1章、第2章と全体の構成が浮かび上がってくるのです。

 月に2回くらい、日曜日に3時間ほどかけて集中して執筆します。地域のお年寄りに話しかけるようなつもりで筆を進めます。一冊書き上げるのに半年くらいかかりますが、私にとっては楽しい時間となります。

 ―人生100年時代と言われる中、西大寺地域の将来像をどのように描きますか。

 西大寺は「裸祭りのまち」と言われますが、私は地域医療に“Moon Shot(ムーンショト)”を起こして「医療・介護のまち」にしたいと思っています。AIも活用して、住民が100歳まで人生を楽しめる医療・介護システムをこの地で実現できればと。病院や行政、地域が力を合わせれば、大きな飛躍が起きると確信しています。

 ―8冊目はどうなっていますか。

 かなり執筆は進んでいます。患者さんや周囲の皆さんからの要望が多かった「認知症対策」をテーマにしています。私は認知症サポーター医でもありますから。これを書き上げたら、いったんは打ち止めかなと思っています。

 こばやし・なおや 岡山大学医学部卒、同大学院医学研究科修了。医学博士。同大学医学部外科学第一講座を経て、米国ネブラスカ州立大学医療センターで臓器移植や再生医療に従事した。2010年、岡山西大寺病院院長。12年から同理事長。岡山大学医学部医学科臨床教授。

もっと!エンジョイできる透析医療(1430円、2016年1月)

 透析治療を受けている国内患者は2019年末現在で約34万人。70歳以上を中心に増えている。血液透析は1回4時間以上で週に3回必要で、高齢の患者や介護者の大きな負担となっている。透析とうまく付き合いながら生き生き暮らしてほしいと、シャントや食事の管理などについても丁寧に説明している。

もっと!エンジョイできる在宅医療(1430円、2017年1月)

 病院での治療の後、自宅で家族に囲まれて気兼ねなく療養生活を送る、人生最後の終末期を迎える。それを支援するのが多職種による在宅医療だ。訪問診療医や看護師、訪問リハビリ、介護老人保健施設などの役割、介護の心得や気をつけるべき疾患、各種制度の仕組みが分かる基本的な情報をまとめた。

もっと!エンジョイできる四季別健康新生活(1430円、2017年10月)

 季節が変われば、その季節特有の病気が顔を出す。天気が不安定な春は多くの人々の環境も変わり、心の病に悩む人も出てくる。夏は食中毒や熱中症に、食欲の秋にはメタボリックシンドローム、寒い冬には心臓疾患などにも気を付けたい。季節の代表的な病気の解説と、その対策をまとめた一冊。

もっと!エンジョイできる健康プラス10年長寿(1430円、2018年6月)

 日本人の平均寿命(2016年現在)は男性80.98歳、女性87.14歳だが、健康で自立した生活を送れる健康寿命(同)は男性72.14歳、女性74.79歳にとどまる。健康でいられる期間をもう10年程度プラスしてその差を縮めるため、食事や運動、睡眠に関する日々の工夫を紹介。老化のメカニズムも分かりやすい。

もっと!エンジョイできるコツ骨貯金で人生100年時代(1430円、2019年4月)

 体を支える、血液をつくる、カルシウムなどのミネラルを貯蔵する―といった、従来知られていた骨の機能に加え、さまざまなメッセージ物質を放出して脳や心臓、肝臓など全身の臓器を活性化させる働きに注目した。骨がつくられるメカニズム、骨を弱らせてしまう要因も詳しく説明。

もっと!ブラッシュアップできるがん対策 ゲノム医療から予防まで(1430円、2020年2月)

 がん発生の仕組みから一人一人に最適の治療薬を探すゲノム医療、予防に有効な生活習慣まで、図解を交えて分かりやすく解説。オプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬や、患者自身の免疫細胞を改変してがんと闘う「CAR―T細胞療法」なども紹介している。

もっと!ブラッシュアップできるAIが拓く新医療 新型コロナ対策~認知症~がん治療まで(1320円、2021年3月)

 日常会話ができ、認知症の高齢者を和ませる介護支援ロボット、高い精度でがんなどの異常を見つける画像診断。AIの導入によって医療・介護現場は大きな転換期を迎えている。ポストコロナを見据え、新たな時代の医療の可能性を考える。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年04月19日 更新)

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