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(10)手の外科 笠岡第一病院 橋詰 博行院長(58)

手術用の内視鏡を点検する橋詰院長

 「指が曲がらない」「手がしびれる」「肘が痛む」「五十肩で腕が上がらない」という患者の訴えで昨年、手の外科、上肢手術は917例に及んだ。全国トップクラスの治療実績。

 2005年、岡山大整形外科助教授から院長になった。宮島厚介理事長の人柄、病院づくりの考え方にふれ、地域医療で臨床医の道を選んだ。最初の年は301例だったが、この6年間で3倍に増えた。スペシャリストの腕を頼って患者が全国から来院している。

 1977年、整形外科に入局。児玉俊夫教授の最後の弟子。4年後、医学博士の学位を授与された田邊剛造教授はまだ助教授、傷口の切開、縫い合わせ、糸結び、ギプスの巻き方などを教えてくれた井上一講師がその後任教授。「師に恵まれ、三代の教授の指導を受けた」と言う。

 32歳で独り立ちし岡山済生会総合病院整形外科医長になり、手の外科で知られる赤堀治整形外科部長に出会い、師と仰ぐ。手術医はその医療技術、腕前を手技と言い、長年の手術経験から自分流の手技を持つ。手術場で、患者をはさんで前立ちし、師のメスさばきに目をこらした。整形外科医ははさみを多用するが、師はすべてメス。切り口がきれいで体組織に優しい。術後の傷の修復が美的。左利きの師のメスの動かし方を目に焼き付け、夜、自宅で妻の手をモデルにシミュレーション。盗もうとする伸び盛りの吸収力を感じたのか、師も鍛えてくれた。骨折、靱帯(じんたい)損傷など外傷の手術から手根管症候群、肘部管症候群など神経障害の手術へと難度が上がっていった。手術でメスを持たされることが増えていく。「手の外科は治療が細密で難しく、敬遠していたが、赤堀先生の人柄と洗練された手技、科学的分析に引き込まれ、夢中になった」。医師として最も大事な30代の大半を手の外科に没頭した。

 39歳、専門分野を身に付け大学病院へ帰った。2年後、東京都の日赤医療センターの奥津一郎整形外科部長の門を叩(たた)いた。整形外科の内視鏡手術は日本が先進国。奥津は手根管症候群に対する関節外内視鏡手術を世界で初めて実施していた。見学に押しかけ、5例の手術を見て、内視鏡の使い方、手術手技の手ほどきを受け、自分でもさせてもらった。手の外科医同士の気心か伝授はスムーズだった。治療時間は15分、3分の1に短縮、術後すぐに手は使える。切開しない内視鏡手術は患者に大きなメリットがあった。岡山に帰り解剖献体の屍(し)体肢で内視鏡手術を練習。血管、神経の位置を頭に叩き込み、臨床を始めた。

 中国へ飛んだ。42歳で助教授となっていた。皮膚と骨の複合組織移植を足から腕へ行う場合、直径1ミリ前後の微小血管をつなぎ合わせる手技が求められる。上海医大華山医院の顧玉東教授はマイクロサージャリー(微小外科)の大家。5年間、5月の連休の1週間を使い、微小血管吻合(ふんごう)術を繰り返し見た。練習はネズミの15センチほどの尻尾の血管。3~5片に切り、顕微鏡で拡大して縫う。肉眼では見にくいほど細い糸を丁寧に一針ずつ進める。縫い合わせると血流が末尾まであるか確認する。途中でもれることもしばしば。根気、体力、集中力が勝負。2年目からは精度が高くなった。

 剣道2段。武者修行の如(ごと)く新しい治療技術のため、師を求め、海を越え、教えを乞うた。いつごろ、一人前になったと思うか、問うた。「今でも、一人前ではない。医療は日進月歩。常に新しい壁が立ちはだかる」

 6年前から「上肢外科サマーセミナー in Kasaoka」を主催、中四国から手の外科を目指す整形外科医70人ほどが集まる。教える立場になっている。「良い師に恵まれたお返しです。訓練すれば上達する。技術と人間関係の束縛から自由になると仕事に全力を尽くせる」

 手術日には10例前後のオペをこなす。手際の良いメスさばきの裏には酒をできるだけ控える自己管理がある。(敬称略)

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 はしづめ・ひろゆき 高知学芸高、岡山大医学部卒。同大大学院修了。日本整形外科学会専門医、日本手外科学会専門医、日本リウマチ学会専門医・指導医、日本リハビリテーション医学会専門医・指導責任者、東京大大学院工学系研究科非常勤講師、岡山大臨床教授。

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 手の外科 指から手首までが治療範囲。上肢外科は肘、肩まで。弾発指・腱鞘(けんしょう)炎、手根管症候群など末梢(まっしょう)神経障害、指や手首の骨折・脱臼、関節拘縮・変形、腱・靱帯損傷などを治療する。かつての切開から内視鏡治療など低侵襲手術も行われ、マイクロサージャリーの技術も必要。

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 外 来

 橋詰院長の外来は月曜日午後2時から5時までと水・木・土曜日午前9時から正午まで。完全予約制。電話0865-67-0211。手術日は月・火・金曜日。

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 笠岡第一病院

笠岡市横島1945

メールアドレス

info@kasaoka-d-hp.or.jp

アクセス JR山陽線笠岡駅からタクシーで約10分。山陽道笠岡インターから車で約15分。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年01月17日 更新)

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