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(5)子宮内膜症・子宮腺筋症  川崎医大産婦人科教授 下屋 浩一郎

図1

図2

表1

 子宮内膜症とは、図1に示すように子宮内膜が本来存在する場所以外の場所に存在する疾患で、病巣は主に骨盤内になります。子宮内膜類似の組織が子宮体部筋層に存在するものを子宮腺筋症として子宮内膜症とは区別しています。女性ホルモン依存性の疾患で先進国では過去20~30年間に診断、治療を受ける率は増加してきています。本疾患の社会的関心の高まり、診断技術の普及なども増加の理由に挙げられていますが、生活様式や女性のライフスタイルの変化などにより実際の患者数も増加していると推定されています。

 子宮内膜症の頻度は5~10%程度で好発年齢(よく発症する年齢)は30~40歳代とされていますが、最近では若年者にも見られるようになってきています。

 子宮内膜症の発生原因としては子宮内膜移植説が知られており、月経血の逆流により子宮内膜細胞が移植されることによるとされていますが、子宮内膜症を発症する人とそうでない人がいるのはどうしてか不明な点も多いとされています。従って子宮内膜症は、月経が規則的で未産婦に多く、分娩(ぶんべん)回数とともに頻度が減少するとされています。

 子宮内膜症の症状としては図2に示すように大きく三つに分かれており、痛み(月経痛、性交痛、排便痛、重症化すると慢性骨盤痛)、卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)、不妊です。これらの症状の重複を伴うことも多いです。月経痛などの痛みの症状が強い方は、子宮内膜症が発見されることも多いので産婦人科医の受診をお勧めします。たかが月経痛と思いがちですが、平成12年厚生科学研究によると、月経困難症(月経痛など)が日本全体で経済に与える影響として経済的損失は年間1兆円にも上るとされていて、月経痛は女性の生活の質を低下させるだけでなく、社会的・経済的にも大きな損失となっています。

 子宮内膜症の診断には内診、超音波検査、MRI(磁気共鳴画像装置)検査などを用いますが、診断を確定するには腹腔(ふくくう)鏡検査が必要となります。

 治療法は、個々の症状に合わせて対応する必要があり、症状が軽度の場合は、鎮痛薬で経過観察することもあります。症状が強い場合には薬物療法を行います。子宮内膜症の薬物療法は最近日本発の新しい治療法が開発され、選択肢が広がっています。表1に示しますが、症状の強さ、年齢などを考慮して最適の治療法を選択します。症状が重症な場合、不妊の原因となっている場合、卵巣チョコレート嚢胞を認める場合には腹腔鏡手術や開腹手術などの手術が選択されます。卵巣チョコレート嚢胞は癌(がん)化(悪性化)することがあり、手術をする必要があるかどうか主治医の先生とよく相談する必要があります。

 子宮腺筋症は、子宮筋層内に子宮内膜様組織が存在し、女性ホルモンに反応して増殖する疾患で子宮内膜が筋層内に直接浸潤して発症するとされ、30歳代後半から40歳代の経産婦に多いとされています。症状は月経痛と過多月経で子宮内膜症と同様に内診、超音波検査、MRI検査などで診断します。治療は手術療法と子宮内膜症と同様の薬物療法があります。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年02月07日 更新)

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