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口唇・口蓋裂治療 発育に応じて継続的に

岡山大大学院医歯薬学総合研究科,飯田征二教授

 唇や上顎に先天的な障害のある口唇・口蓋裂。「言語、そしゃく機能や審美性を考え、発育に応じた適切な治療を10代後半まで継続的に行うことが大切」と、岡山大大学院医歯薬学総合研究科の飯田征二教授(顎口腔(がくこうくう)再建外科学)は語る。

 口唇・口蓋裂は、国内では500~600人に1人の割合で発生する。口唇裂は上唇に、口蓋裂では上顎に裂状の組織欠損がある。外見だけでなく、哺乳や言語発達などに影響するため、出生後早期からの治療が必要となる。

 裂のため口腔内を陰圧にできずに起こる哺乳障害には、組織欠損を補う哺乳床(ホッツ床)の装着、口蓋裂専用乳首の使用などの指導が必要。岡山大学病院口腔外科(再建系)では、出産医院へ往診をしており「母親の不安をなくす上でも効果を挙げている」という。

 口唇の裂を閉じる口唇形成術は生後3カ月ごろ、口蓋の形成術は、将来の正常な言語機能の獲得を主眼とし、1歳6カ月ごろまでに済ませる。

 特に口蓋裂では、上顎奥の軟口蓋と咽頭を密着させる「鼻咽腔閉鎖運動」ができないため、呼気が鼻に漏れてしまい、口内に息をためた発音が不可能=図参照。そのため手術は、軟口蓋を持ち上げる筋肉の再建と、咽頭へ近づけ閉鎖しやすい環境を作ることが重要となる。

 しかし、口蓋形成術の影響で、上顎が発育不全になることは少なくない。歯が正しい位置に生えず、かみ合わせや顔のバランスなどに問題が生じ、さまざまな治療が行われる。この中で、顎の成長障害の改善に有効なのが「仮骨延長術」だ。

 脚の長さを伸ばす整形外科治療法を応用し、顎を理想的な大きさに成長させる方法。治療は延長させたい場所で顎の骨を1度骨折させ、その後、専用の延長装置で1日に0・5~1ミリ伸ばしていく。2、3カ月固定すると、伸ばした部分に完全な骨が形成される。

 「仮骨延長術は患者さん自身の組織の再生力を利用し、骨や周囲の軟組織まで成長させられるので、鼻咽腔閉鎖運動などが障害されない」と利点を強調。「口唇・口蓋裂だけでなく、小さな顎の骨の拡大や、インプラント治療で人工歯根を埋め込む顎骨が少ない場合にも活用している」と話す。

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 岡山大学病院口腔外科(再建系)の新患受け付けは月、水曜日と第1、3、5金曜日の午前8時半~11時半。問い合わせは同科(086―235―6798)。

 いいだ・せいじ 奈良高、大阪大歯学部卒。同学部助手、同学部付属病院講師、ドイツ・ハイデルベルク大客員研究員などを経て、2009年から現職。徳島市出身。50歳。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年02月07日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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