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(1)医師の立場から 倉敷平成病院倉敷生活習慣病センター診療部長 青山雅

青山雅氏

 糖尿病患者は年々増加しており、透析が必要になる疾患の第1位、中途失明原因の第1位が糖尿病であることから、血糖値をコントロールする指導が重要とされています。食事療法も低糖質ダイエットなどが話題になっており、また血糖値を下げる新しい薬やインスリン注射なども発売されていますが、新しい食事療法や薬が発売されると、患者さんたちにも混乱を生じます。医師が治療法を決めるときの大切なポイントがあります。

 (1)年齢

 64歳以下、65歳から74歳まで、75歳以上で分けて考えます。

 食事に関しては、年齢が上がるにつれて食べる量が減ってきますので、75歳以上になると食事をきちんと食べることが大切です。特に、お菓子、果物だけ食べていないか、タンパク質をきちんと食べているかが大切です。

 運動に関しては、75歳以上の人は片づけをする、入浴などの日常の動作をうまく利用しても血糖値がよくなります。

 (2)痩せているか太っているか

 糖尿病になると必ず食事制限をしなければいけないと思っていませんか。食べなければよいと思い、痩せれば糖尿病は治ると信じていませんか。

 肥満型の糖尿病の方は確かに体重が減ると血糖値が良くなる方はいますが、痩せている方は、体重だけ減って血糖値が悪化する人がいます。炭水化物を減らすと、筋肉が減ることが多いのでお勧めできません。痩せている方はしっかり食べて運動してもらうようにします。栄養の足りない人は一時的にインスリンを使用することもあります。肥満型の糖尿病患者の人には尿から糖を排泄(はいせつ)するSGLT2阻害薬などが適応になります。

 糖尿病患者の目標は体重を減らすことではなく、血糖値を良くする、筋肉量を維持することにあります。

 (3)性別

 筋肉量が多い男性は女性よりも基礎代謝が多いので、女性よりも指示カロリーは多くなります。ただ、男性は、家ではソファに座っていることが多いので、積極的に家事労働や風呂掃除を行ってもらいます。

 (4)運動量

 体を動かす仕事の方は、指示カロリーは多くなります。ただし、血糖値を下げるためには、食事をしてから動く、車でいえば、ガソリンを入れてから走らせるようにしないと、反対に血糖値は上がります。1日1万5千歩歩いても、歩いた後にたっぷり食べると血糖コントロールは悪化します。食事、運動の順番が血糖値を良くします。

 いわれてみれば当たり前のようなことですが、糖尿病という病気を思うと、勘違いしやすいことが多いですね。患者さんご自身に合った食事をきちんと食べる、血糖を下げる運動をする、お薬を飲む。それを考えるのが医師の役割だと思います。糖尿病の状態や治療法は個人個人で違うことを忘れないでください。



 倉敷平成病院(086―427―1111)

 あおやま・まさこ 北海道立旭川東高校、東京女子医科大学医学部卒業。東京女子医科大学第一内科血液内科、自治医科大学血液内科を経て、米国オハイオ州クリーブランドクリニック財団癌センター、リサーチフェローで3年間を過ごす。帰国後、岡山大学第二内科を経て、2002年、倉敷平成病院倉敷生活習慣病センター着任、現在に至る。医学博士、日本糖尿病学会専門医、日本老年病学会専門医、日本血液学会専門医・指導医、日本内科学会内科認定医、日本東洋医学会専攻医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年06月07日 更新)

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