文字 

(8)人工関節手術は関節のアンチエイジング 倉敷成人病センター整形外科主任部長 三好信也

人工股関節

部分置換型人工膝関節

三好信也氏

 人工関節が世界中で広く使用されるようになってから約60年がたちました。10年しかもたないと言われていた人工関節ですが、理想的な位置に取り付けられると長持ちすることが分かり、術後20年で8割程度の患者さんが入れ替え無しに過ごせるようになりました。

 今世紀初めに長持ちする材質が採用されたことで、股関節の場合は術後30年で8割の人が入れ替えなしに過ごしているだろうと予想されています。

 長持ちさせるためには人工関節を理想的な位置に設置することが重要です。そのためにはCTを使用した三次元的な術前計画立案が役立ちます。ただ、理想的な術前計画も手術でそれが実行できなければ意味がありません。人工関節手術では手術道具が骨のどの部分を切っているのかを正確に知る必要がありますが、従来は肉眼と医師の経験による感覚だけを頼りにそれを判断していました。しかし五感に頼るだけでは熟練した医師でも時に不適当な位置に人工関節を設置する場合があり、長期成績不良の原因となりえます。

 当院では2005年の整形外科開設以来1千例を超える人工関節手術が行われていますが、07年より人工関節設置にナビゲーションシステムを導入しており五感に頼らない正確な手術を行っています。これにより傷の小さいMIS(最小侵襲手術)の場合でも安心して手術が受けられるようになっています。

 膝の場合には内側だけが痛む人も多く、内側だけの部分人工関節置換術が増えています。部分置換術は傷も小さいですし、術後の痛みも少なく正座できる人もいます。現在広く使われている部分置換で最も歴史の古いものはイギリスのオックスフォード大学が作ったものですが、この機種は術後30年でも8割以上の人が良好に使えているという実績が出ています。当院は中四国で最も多くこの機種を使用しており、2位の施設の倍以上の手術を行っています。

 それだけ多くの経験があるので、通常は部分置換を選択できないような患者さんでも設置できる場合があります。部分置換術では通常の人工膝関節と異なり膝の靭帯(じんたい)が全て残っておりマラソンなどのハードな種目でなければスポーツもできる良い方法です。

 人工関節を入れることで痛みなく歩けるようになるので「あの頃の自分のように」旅行や運動ができます。若い頃の生活ができるようになるので人工関節手術は関節のアンチエイジングだという人もいます。関節の若返りを望まれる方は一度検討してみてはいかがでしょうか。



 倉敷成人病センター(086―422―2111)

 みよし・しんや 土佐高校、高知医科大学卒。2001年より手術支援ロボットROBODOCによる人工関節手術を行い黎明期よりコンピューター支援外科に携わる。05年1月より倉敷成人病センター整形外科勤務。日本整形外科学会専門医、日本人工関節学会認定医、日本リウマチ学会専門医、日本コンピューター外科学会評議員、日本体育協会公認スポーツドクター。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年06月07日 更新)

ページトップへ

ページトップへ