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(3)運動療法~理学療法士の立場から~ 倉敷平成病院理学療法士 清水亮祐

清水亮祐氏

 運動療法というと、しっかり運動して筋力・体力をつけないといけない! というイメージがあるのではないでしょうか。もちろん大事なことですが、そこまで頑張る必要はなく、ポイントを押さえて適切に実行することで効率的・効果的に血糖コントロールを図ることができます。

 私が糖尿病患者へ運動療法を処方する際に気を付けていることは、その方の身体機能や疾患の程度に合わせ「正しい知識を持って」取り組めるようサポートすることです。

 ◆一般的な糖尿病に対する運動療法

 ・持続時間は連続20分以上

 ・歩行は1日1万歩以上

 ・週に3~5日以上

 ―などが推奨されています。

 これらを全て実行することは難しく、そのまま指導することはほとんどありません。なぜなら、運動は「しんどい」もの、「頑張る」ものだと思ってほしくないからです。糖尿病の運動療法は、血糖値やHbA1cを下げ、インスリンの効き目を良くすることに最大の目的があります。そのためのポイントとして、私が最も重要だと考えているのが運動の「タイミング」です。

 ◆運動のタイミング

 グラフは「糖尿病ネットワーク」のホームーページに掲載されているものです。1人の糖尿病患者に四つのパターンで運動(10分間の歩行)をしてもらった際の血糖値の動きを示しています。縦軸が血糖値、横軸が時間経過を表しています。

 水色ラインの安静時(運動なし)に比べ、朝食1時間前に運動したパターン(赤ライン)は、朝食後の血糖値の上昇が大きくなっているのが分かります。次に、朝食を食べ始めてから1時間後に運動したパターン(紫ライン)は、その他の3色に比べて食後の血糖値が降下しています。最後に朝食を食べ始めてから3時間後に運動したパターン(緑ライン)は、昼食前に著しく血糖値が降下しており、低血糖のリスクを生じています。

 インスリンは血糖値が高い時に活発に分泌されるホルモンであり、運動によりその効き目が増します。そのため、目安としては食後1時間に行うことが効果的であり、食事から3時間以上経ってからの運動は低血糖のリスクを生じ、逆効果となる可能性があります。

 また、運動というと歩行や筋トレをイメージされる方が多いと思いますが、掃除や洗濯といった日常動作は歩行と同程度の身体活動量と言われています。上記ポイントを踏まえ、例えば食事1時間後に掃除機をかける、2階へ上がり洗濯物を干すなども効果的です。また、日常の中から工夫をすることで運動が習慣化され、継続しやすくなると思います。

 長期にわたって付き合っていかなければならない糖尿病。正しい知識を持ち継続することで、効率よく血糖コントロールの改善を目指しましょう!



 倉敷平成病院(086―427―1111)

 しみず・りょうすけ 広島県立広島工業高等学校卒業。一般企業に就職後、川崎リハビリテーション学院を経て2014年、倉敷平成病院リハビリテーション部入職。18年に糖尿病療養指導士の資格を取得。日々のリハビリ業務の傍ら、糖尿病患者への運動指導に従事している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年07月05日 更新)

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