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(14)成長障害 岡山済生会総合病院小児科  田中弘之診療部長(56)

診察室の田中診療部長。この笑顔で子どもと向き合い、成長を支える

骨・ホルモンのエキスパート
子どもの正常な発育を支援


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 男子=[父の身長+(母の身長+13)]÷2

 女子=[(父の身長−13)+母の身長]÷2

 子どもの身長は遺伝に左右される、というのはあながち間違いでもないらしい。田中が執筆者の一人になっている医学書を読んでいると、その子が大人になった時の身長を予測するこんな計算式が載っているのを見つけた。

 身長は人生で2度大きく伸びる。最初は乳幼児期。50センチほどで生まれた赤ん坊が1年間で1・5倍、4歳ごろには倍の100センチほどに急成長する。次が思春期。これを過ぎると骨は成熟し、ほぼストップする。

 だがまれに、その成長曲線のパターンから外れてしまうことがある。真っ先に挙がるのが、身長が著しく低い「低身長」。定義上では同性・同年齢の子どもを100人集めると2、3人が該当する。病的原因があれば幼いうちから治療を受けることが重要なのだが、「単なる個人差の範囲で片付けられ、異常が見逃されることも少なくありません」と田中は言う。

 もちろん身長を伸ばすことだけが大切ではないとはいえ、「そのまま大人になって、例えば背が140センチに満たないとしたら、他に疾患がなくてもどれだけ社会的な不利益を被るか」。

 こうして話している時は厳しい表情の田中だが、アニメのキャラクターやぬいぐるみが飾られた診察室に移ると実によく笑う。何といっても目が線のように細くなる笑顔が印象的だ。不安を抱える子どもや親に安心感と信頼感を与えているのは想像に難くない。

 田中は小児科の中でも骨代謝や内分泌といった子どもの成長を左右する分野のエキスパート。大阪大の医学部生時代、先天異常に関する研究に携わったのをきっかけに、この道を歩み始めた。以来、子どもの正常な発育をサポートすることに一筋。今も年間約150人に上る患者が田中のもとで継続治療を受けている。

 母校の付属病院から岡山大医学部付属病院(当時)に転じたのは1990年秋のこと。卒業からちょうど10年。その年の春には、恩師だった清野佳紀助教授(現在は大阪厚生年金病院名誉院長、岡山大名誉教授)が岡山大に教授として迎えられていた。清野は同じ小児科医、かつ骨代謝分野の大ベテラン。二つの大学で間近に薫陶を受けた成果は、優れた研究に贈られる「日本骨代謝学会学術賞」などの受賞歴にも表れる。

 4年前、大学から岡山済生会総合病院へと所は変えたが、今も昔も小児科医として田中が心掛けるのはただ一つ。それは「常に子どもときちんと向き合うこと」。

 一口に成長障害といっても原因は多岐にわたる。成長に関わる成長ホルモンや甲状腺ホルモン、性ホルモンが正常に分泌されない、「軟骨無形成症」など骨そのものに異常がある、脳腫瘍や染色体異常、精神的な要因…。最近では、日光浴不足などによるビタミンD欠乏症が乳幼児に増えていることも田中の調査で分かった。これは骨が変形する「くる病」を引き起こしかねない。

 成長ホルモンや甲状腺ホルモンを補充するなど治療法はさまざま。しかも、年単位の長い時間がかかることも珍しくない。親はもちろん、子ども自身が理解し納得しなければ、継続治療はどうしても難しくなる。

 「だからこそ、親に向かって話をするのではなく、子どもに直接語りかけなくてはいけない」。病院では土曜日も交代で診療を行う。学校を休むことのできない子どもたちが来院しやすくするためだ。

 成長するにつれ、田中のもとには子どもたちの体の悩みに加え、性の悩みや心の悩みも持ち込まれてくる。一方、かつての患者たちから「結婚しました」「子どもが生まれました」とうれしい便りも届けられる。

 「ただ病気を診て治すのとは違う。その子がちゃんと大きくなっていけるよう、成長の全部を引っくるめて診る。それが僕らの仕事です」。多くの子どもたちの人生を田中は見守っている。(敬称略)


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 たなか・ひろゆき 大阪大医学部卒。米ワシントン大病理学研究員、大阪大医学部付属病院小児科医員などを経て、岡山大医学部付属病院助手、同大医学部講師、同助教授、同大大学院医歯薬学総合研究科准教授などを歴任。2007年9月から現職。編著に「改訂版 骨の病気と付き合うには―本人と家族のために」(メディカルレビュー社刊)など。

 趣味は釣り。最近の釣果は小豆島沖での60センチ級マダイ。

 成長障害 月齢・年齢ごとの標準的な成長具合をグラフ化した「標準成長曲線」が一般的な判断の目安となる。測定した身長などの値を曲線に当てはめ、平均値からプラスマイナス2SD(標準偏差の意味)の範囲内(全体の約95%がここに入る)であれば適正とされる。範囲外だったり、範囲内でも曲線のカーブからそれるようなら、専門医に相談するのが望ましい。診断の際には骨の状態を確認するエックス線撮影、ホルモン分泌の異常を調べる血液検査なども行う。成長曲線は製薬会社などのホームページからもダウンロードできる。

 外来 田中診療部長の外来診療は月・火・木曜日の午前と金曜日の午後2時〜3時。火曜日午後は予約のみ。土曜日は交代制。

岡山済生会総合病院

岡山市北区伊福町1の17の18

電話086―252―2211

メール アドレス  byouin@okayamasaiseikai.or.jp

 「岡山医療健康ガイド メディカ」は第1、第3月曜日付の特集です。簡単に抜き取りができ、保存していただけます。次回は4月4日付です。

 主要記事や過去の記事は山陽新聞社のホームページ「岡山医療ガイド」(http://iryo.sanyo.oni.co.jp)でもご覧になれます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年03月21日 更新)

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