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(10)子宮体がん 川崎医大産婦人科学教授 中村隆文

月経周期と子宮内膜の変化

子宮体がんの進行

子宮体がん検査

 子宮がんは、発生する場所で2種類に分けて診断・治療します。ヒトパピローマウイルスの感染により発生する子宮頸部(けいぶ)(子宮の入り口)にできる「子宮頸がん」と、子宮体部(子宮の奥)にできる「子宮体がん」です。2005年全国がん罹患(りかん)統計(上皮内がんを除く)では子宮頸がん約8500人、子宮体がん約8200人、子宮部位不明約800人が罹患し、2008年度人口動態統計では子宮頸がん約2500人、子宮体がん約1700人、子宮部位不明約1500人が死亡しています。

 女性は毎月、卵巣から周期的に分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の作用で、子宮体部の子宮内膜細胞が分裂・増殖・分化し、受精卵が着床して育つためのベッドの準備をします=図1参照。妊娠しなければ肥厚した子宮内膜は脱落して月経が起き、子宮内を清掃し新しい子宮内膜細胞に変えて、次の妊娠のため子宮の準備を開始します。

 子宮体がんはこの子宮内膜細胞ががん化して発生するので「子宮内膜がん」ともいいます。子宮頸がんが20〜40歳代の若年女性に発生するのに対して、子宮体がんは50〜60歳代にピークがあります。子宮体がんは欧米先進国に多く、日本も食生活が欧米化するのに一致して年齢に関係なく増加してきています。

 子宮体がんはエストロゲンによって増殖するタイプとエストロゲンに関係なく発生するタイプがあります。ハイリスク因子として30歳以降の月経不順、閉経が遅い、出産歴がない、肥満―などがあります。乳がんのホルモン療法に用いられるタモキシフェン内服や、更年期障害のホルモン補充療法でプロゲステロン製剤を内服せずエストロゲン製剤単独の内服で発生しやすくなります。また糖尿病、高血圧、家族性に発生する乳がんや大腸がんと関係があると考えられています。

 最も普通にみられる子宮体がんの症状は不正性器出血です。特に閉経後の出血には注意が必要です。子宮留膿腫(のうしゅ)(子宮内膜炎が悪化して子宮内に膿瘍がたまる疾患)を合併して膿性帯下(膿(うみ)のおりもの)と出血を伴うときは子宮体がんを強く疑います。

 子宮体がんは増大すると子宮全体が腫大して子宮収縮を伴う腹痛も出現します。さらに進行すると卵管に広がり卵巣に転移して腹腔(ふくくう)内に子宮体がんの細胞が広がってがん性腹膜炎になります=図2参照。子宮体がんの進行は卵管経由とは別に子宮筋層に深く浸潤してリンパ管を通ってリンパ節に転移したり、血管に入って肺や肝臓に転移する場合もあります。

 子宮体がんは子宮頸がんと同様に子宮がん検診で早期発見するように婦人科医師は努力していますが、子宮頸がんよりも子宮体がんの検査は痛みを伴い、時には子宮内膜炎を発生する時もあるので、症状もない一般女性すべてを対象に検診して子宮体がん検査(子宮内膜細胞診や子宮内膜組織診)をするのはあまり得策ではありません。つまり子宮体がんになりやすい薬を内服していたり、不正出血や痛みの症状がある女性や、婦人科一般検診の経腟(ちつ)超音波検査で子宮内膜の異常があれば、子宮体がん検査が必要です。

 子宮頸がん検査は直視下で子宮の入り口を綿棒などで擦って細胞を取るので痛みは全くなく正確に検査ができ発見率も高いです。一方、子宮体がん検査の子宮内膜細胞診は、子宮の奥の方に細い棒を入れて子宮内腔を直接観察しないで擦って細胞を取ってくるのでがん発見率が低く、器具を子宮口に挿入するときに痛みがあり、さらに子宮内腔を擦るときにも痛みを伴います。

 出産経験のあるときは器具の挿入にはほとんど痛みを伴わないのですが、子宮の奥を擦る細胞診やキュレットゾンデ(金属性の細い棒の先が小さなスプーン状に湾曲した器具)で子宮内膜組織を採取するとき=図3参照=には、強めの生理痛ぐらいの痛みを伴います。

 精密検査のため子宮内腔全面を検査するときには麻酔が必要です。しかしながら子宮体がんは前がん状態である子宮内膜増殖症から不正性器出血を起こすことが多いので不正性器出血があってから子宮体がん検査をしても早期発見できることが多いです。

 子宮体がんの治療法は原則として単純子宮全摘出術と両側附属器(卵巣と卵管)摘出術が必要ですが、若年で未婚で妊娠・出産を希望する女性が子宮体がんになったとき、初期の場合(よく分化したがんが子宮内膜に限局している場合)には黄体ホルモン治療で軽快することがあるので、子宮を摘出を遅らせて出産後に手術治療する場合もあります。子宮体がんの早期発見のためには年1回の婦人科一般検診の経腟エコー検査で内膜の状態をチェックすることが重要です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年04月18日 更新)

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