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(5)医師の立場から2 倉敷生活習慣病センター診療部長 青山雅

 糖尿病の治療は食事療法、運動療法、薬物療法が3本柱と言われ、前回まで3回にわたって管理栄養士、理学療法士、薬剤師からコツや気を付けることをお伝えしました。今回は、糖尿病の治療でもう一つ大切な水分管理についてお話ししたいと思います。

 血糖値が高いということは、血液に含まれているブドウ糖の濃度が高いということです。食事療法はちょうどよい糖質のとり方、運動療法は筋肉に取り込んでブドウ糖を消費する方法、薬物療法はインスリンの働きを助けることで血糖値を下げる治療です。

 水分管理は、水分を上手にとることで血糖値を薄める方法です。私たちは、水分をとらないと命にかかわります。ところが、糖尿病患者がジュースや清涼飲料水などをとると、ブドウ糖は薄まるどころか、かえって高くなってしまいます。

 糖尿病患者がとる水分は、砂糖やブドウ糖の入っていない、水、緑茶、コーヒー、紅茶や塩分を入れないだし汁などもよいです。果物、ハチミツなどは、とりすぎると血糖値が上がりますので適量を守ることが大事です。どうしても清涼飲料水やスポーツドリンクを飲みたい方は、3倍くらいに薄めて飲めばあまり影響はありません。

 糖尿病の急性合併症には糖尿病昏睡という病態があります。正常の人は血糖値が200mg/dl以上にならないように自動調節されています。糖尿病はこの自動調節が壊れているために血糖値が上がってしまう病気です。

 血糖コントロールの悪い患者が感染症になった、夏になって食欲がないので果物やアイスばかり食べていた、おしっこに行くのが嫌で水を飲まない、下痢や嘔吐(おうと)で食事や水分がとれない、清涼飲料水や牛乳を水の代わりに毎日飲んだ―などが引き金になり、救急車で運ばれることがあります。

 血糖値が600mg/dl以上になり、意識がなくなる高浸透圧高血糖症候群やペットボトル症候群(糖分を含む飲料を大量に飲み続けることで起こる高血糖)を起こして命を落とす場合があります。これは普段から適切な水分をとることを心掛けていれば防ぐことができます。

 では、適切な水分量とはどれくらいでしょうか。大事なことは、まず自分がどれだけ水分をとっているか、おしっこに何回行っているかを確認することです。

 普通のコップや、湯飲みは約200ml入ります。500mlのペットボトルで何本飲む、と計算してもよいと思います。3度の食事の時にそれぞれ200ml、午前10時と午後3時に200mlずつとれば大体1000mlになります。最低でもそれくらいは必要です。夏になって汗をかく場合は500mlくらい余分に飲んだ方がよいと思いますが、年齢や、屋外で作業する場合、スポーツ習慣のある方と、家に閉じこもっている方では必要な量が異なります。

 SGLT2阻害薬を飲んでいる方は十分に水分をとる必要があり、おしっこに行った後に、100mlくらい水を飲んでおけば脱水症にはなりません。ただ心不全のある方は反対に水分量を制限されていますから、主治医の指示に従ってください。

 水分一つをとっても何気なく飲んでいるものが血糖値を上げていることがあります。患者さんのお話を聞くとラッキョウを付けた汁を飲んでいた、桃の缶詰の汁を飲んでいるなど武勇伝がたくさんあります。

 5回にわたってお話ししてきましたが、上手に食べて、血糖値が下がる時間に動いて、お薬の作用や名前をきちんと覚える。ぜひ、糖尿病患者の名人位になることを目指してお暮らしください。



 倉敷平成病院(086―427―1111)。連載は今回で終わりです。

 あおやま・まさこ 北海道立旭川東高校、東京女子医科大学医学部卒業。東京女子医科大学第一内科血液内科、自治医科大学血液内科を経て、米国オハイオ州クリーブランドクリニック財団癌センター、リサーチフェローで3年間を過ごす。帰国後、岡山大学第二内科を経て、2002年、倉敷平成病院倉敷生活習慣病センター着任、現在に至る。医学博士、日本糖尿病学会専門医、日本老年病学会専門医、日本血液学会専門医・指導医、日本内科学会内科認定医、日本東洋医学会専攻医など。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2021年08月18日 更新)

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