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(18)大腸がん内視鏡診断 チクバ外科・胃腸科・肛門科病院 瀧上隆夫院長(59) 無痛、短時間、正確に 内視鏡のエキスパート

内視鏡診断をする瀧上院長。鋭い目線で大腸がんの有無を探す

大腸の構造

 鎮痛剤を注射し患者が眠っている間に肛門から内視鏡を挿入、がん病変があるか、ないか、診断は10分で終わる。早業かつほとんど無痛。目が覚めると終わっている。患者は楽。プロの仕事はこんなものかと感心させられる。

 31歳の時、ニューヨークで活躍する新谷弘実医師に弟子入り、帰国後、治験を繰り返し、短時間で正確な診断法を自分の努力でものにした。診断実績は7万例に近い。

 大腸は直径3〜4センチの管。盲腸の所から肛門まで約150センチ。ひだがあって蛇腹のよう。所によりS字にカーブしたり鋭角になっている。曲がりくねった腸管をひっぱりアコーディオンのようにできるだけ直線化するのが新谷法のポイント。

 内視鏡は直径13ミリ、長さ130センチ、合成樹脂でコーティングされ弾力性があり、右手でスコープ、左手でハンドルを操作しながら肛門から上へ。モニターを見、指先に神経を集中、ゆっくり進め、60〜70センチ進むと内視鏡を引いて腸管を直線化、これを3〜4回繰り返し150センチが70センチほどに短縮される。盲腸までの到達時間は平均3分6秒。1カ月間313例をストップウオッチで計測した。1分台20%、2分台37%。腸壁は3〜4ミリ。薄い。破れやすい。熟練でないとできない速さだ。腸管に穴を開ける穿孔せんこうなどの合併症はこの20年間ゼロ。

 「挿入は速く、観察はていねいに」。内視鏡を逆戻りさせながら、病変を探す。肌色の滑らかな表面の中で、がんの多くは隆起し表面が荒れている。ひだの裏や奥の方まで目を凝らす。「目ではっきり確認できるから、がんの存在診断には最適」と内視鏡の強みを話し、1センチ以下のがん病変も見落とさないと一心不乱。年間3500例の診断をこなす。

 外科医になって3年目、セミナーで新谷の実技を見た。当時、国内では曲がりくねった大腸に内視鏡を挿入する技術が進んでいなかった。レントゲンを見ながら二人掛かり「2センチ進めて、はい、止めて」と盲腸まで届くのに2〜3時間、患者に苦痛があり、医師も敬遠する検査だった。それが10分で終えた。「まさに新谷マジック、即断、この人に学ぼう」。つてを頼って渡米したのは1年半後。

 米国での医師免許がなく、診断はできない。内視鏡に触れることも許されなかった。師の内視鏡操作術と腸管を短縮して直線化するテクニックを目で盗むように学ぶしかなかった。8カ月で帰国。翌日から内視鏡と格闘した。30〜40センチで止まる。直角に曲がるS状結腸と下行結腸の境が大きな壁となって立ちはだかる。ようやくそれを通過すると今度は脾臓ひぞうと肝臓の曲がり角。1日3〜4例、レントゲンを見ながらの悪戦苦闘。少しずつ前進し盲腸に達するのに1カ月かかった。2カ月たつとレントゲンを見ずにできた。挿入に1時間、がんの有無を観察するのに30分かかった。最初の1年間200例。3年たつと年間1000例を超えた。モニターを見て指先が自然に動き、流れるように盲腸まで達した。一つのことに打ち込む成果だった。自信を持った。

 朝5時55分起床、車で通勤し7時から猛烈に働く。年中無休。平日は入院患者を回診。外来、内視鏡診断、肛門疾患の手術、胃、大腸の開腹手術と午後7時までフル回転の日々。どんなに忙しくても患者の言うことにはノーと言わない。「具合が悪いから言っているので、後回しせず、その場で対応する」。他の医師、看護師にも徹底している。

 性は善にして律義。駆け引きができない。人を疑わない。頼まれると断れない。恩に感謝、尽くして返す。

 21歳の時、お尻に膿うみがたまる痔瘻じろうになった。無料で入院させてくれたのが竹馬浩理事長。旅行、忘年会にも誘ってくれた。純粋な人柄にひかれ、医師国家試験の翌日から勤務した。外科医としてのイロハを習った。ニューヨーク行きも快諾、費用を出してくれた。「外科医の師であり、人生の師です」。師弟の交わりはもう35年に及び、二人三脚で病院を大きくした。

 「縁をつくるのは難しいけど、疎遠になるのは簡単だよ」―新谷の言葉を忘れない。

 趣味は将棋(五段)囲碁(二段)。特に将棋は患者とベッドサイド対局し米長邦雄将棋連盟会長、浦野真彦七段とも交流。「倉敷に瀧上あり」と知られる腕前。「定石があり、出来上がった所から勝負。次の1ページに無限の世界がある」と魅力を話す。


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 たきうえ・たかお 高梁高、岡山大医学部卒。1978年チクバ外科・胃腸科・肛門科に勤務。82年、ニューヨークで新谷弘実医師に大腸内視鏡検査を研修。2000年、チクバ外科・胃腸科・肛門科病院院長に就任。昨年、岡山県で唯一のがん医学賞の松岡良明賞を受賞。


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外来 瀧上院長の外来は月、木、金曜日の午前中。内視鏡検査は火、水、土曜日の午前中。


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チクバ外科・胃腸科・肛門科病院

倉敷市林2217

電話086―485―1755
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年05月16日 更新)

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