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(2)進歩したB型肝炎治療 岡山赤十字病院肝臓内科部長・小橋春彦

小橋春彦・肝臓内科部長

 日本人100人に1人がB型肝炎ウイルスを保有しています(キャリアといいます)。ほとんどは出生時母子感染〜幼少期感染が原因で、肝炎発症を経て85〜90%の方は成人期までにウイルスが減少し肝機能が正常な状態(無症候性キャリア)になりますが、残りの方は長期間炎症が持続する慢性肝炎に移行します。成人期の性行為感染から急性肝炎を経て、そのうち一部の方が慢性肝炎になることもあります。

 慢性肝炎から1年に2%の割合で肝硬変に進展していきます。また無症候性キャリアから年に0・1〜0・4%、慢性肝炎から年に0・5〜0・8%、肝硬変から年に1・2〜8・1%の割合で肝がんが発生します。この間、自覚症状が何もなく、気づいたときにはすでに進行した状態であったということが多いのが現状です。

 このウイルスに感染していないかどうか、一度調べておくことをお勧めします。血液検査で簡単にわかります。特に家族や親戚に肝臓病の方がおられる場合は、ぜひとも検査を受けることが必要です。もしB型肝炎ウイルスキャリアとわかった場合は、肝機能検査が正常で自分では元気だと感じていても油断せず、半年に一度は診察、血液検査、腹部超音波(エコー)検査を受け、肝炎が増悪していないか、肝がんがひそんでいないかを調べることが大切です。

 B型肝炎ウイルスに対する治療薬として、インターフェロンと経口抗ウイルス薬(核酸アナログ製剤)があります。インターフェロンは、抗ウイルス効果と人間の免疫を活性する作用の両方でウイルスを抑制します。残念ながら有効率は不十分ですが、有効例では治療終了後も持続的な効果が得られます。

 週3回の注射を半年間以上の長期間続けることが必要です。自宅で自己注射することもできます。また、週1回で有効なインターフェロンが近々使えるようになりそうです。35歳以下の若い人、肝炎があまり進行していない人にはインターフェロンが適しています。

 一方、経口抗ウイルス薬(核酸アナログ製剤)はB型肝炎ウイルスが複製・増殖するのを妨げることによりウイルスを減らし、肝機能を正常化させます。その効果は抜群です。問題となるような副作用もほとんどありません。特に最も新しく2006年に発売されたエンテカビル(商品名・バラクルード)は効果が強く、従来の薬に多かった薬剤耐性ウイルスの出現率が低いため、現在第一に選択される薬です。

 ただしウイルスを根本から駆除することはできませんので、一度投与を始めると簡単に止めることができず、長年にわたって服薬を続ける必要があります。従って、35歳以上の人、活動性が高い場合、肝線維化が進んでいる(肝硬変やそれに近い状態)場合に適しています。進行した肝硬変で腹水や黄疸おうだんが出ている場合にも効果が期待できます。肝がんを予防する効果もあると考えられています。

 このように、従来とても治療が難しかったB型肝炎ですが、現在は確実に治療できるようになっています。主治医によく相談し、自分に最も適した治療法を選ばれるとよいと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年05月16日 更新)

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