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乳がん(川崎医大病院) 乳房再建 医療用風船で皮膚拡張

年次別の皮下乳腺全摘症例

稲川喜一・形成外科学教授

 3センチ以下のしこりの乳がんで、がんの広がりが大きく乳房温存手術はできなくても、乳房の形を残したい。

 そうした患者のため、川崎医大病院乳腺甲状腺外科は1996年から皮下乳腺全摘術後の乳房再建(同時再建)を開始した。当初、血管を付けた背中の組織を胸に移植して乳房をつくる方法(広背筋皮弁ひべん法)で行っていたが、2001年から形成外科・美容外科が協力、ティシュエキスパンダー(医療用風船)を用いた方法を取り入れた。

 乳房の皮膚を残し、全乳腺とがんを完全に摘出、残した皮膚をエキスパンダーで拡張する。後日、エキスパンダーと、自家組織(自分の体の一部)や人工乳房(シリコンインプラント)を入れ替え、正常の乳房に近い形をつくる手術方法だ。

 広背筋皮弁法での手術は乳がん切除と合わせて6〜7時間かかっていた。「エキスパンダーなら乳がん切除後、1時間程度で済む」と稲川喜一・形成外科学教授。患者の侵襲(体の負担)が少ないため、現在ではエキスパンダーが主流になっている。

 人工乳房の場合、手術でエキスパンダーを胸の筋肉の下に入れ、そのとき生理食塩水を約100CC注入。術後2週間たってから生理食塩水を週1回、健側乳房よりやや大きくなるまで注入し、徐々に皮膚を引き延ばす。注入終了後3カ月以上待ってから人工乳房と入れ替える。エキスパンダーは保険適用だが、人工乳房は保険適用外となる。

 同病院では広背筋皮弁法とエキスパンダーを用いた方法で、10年までに皮下乳腺全摘術後の乳房再建を134例に施術した=グラフ参照。

 乳房再建の方法はこのほか、腹部の組織を移植する「腹直筋皮弁法」や、腹部や臀部でんぶの組織をいったん切り離し、血管を顕微鏡下でつなぎ合わせて移植する「遊離皮弁法」などがある。

 稲川教授は「患者さんには、遠慮せず乳房再建についてご自身の希望を言っていただきたい」と話す。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年05月16日 更新)

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