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(17)早産 川崎医大産婦人科学教授 下屋浩一郎

 分娩(ぶんべん)予定日は最終月経から数えて40週0日(280日)とされ、分娩時期によって図1のように分類されています。流産の時期は児の救命が不可能ですが、早産の時期になると児の救命が可能となります。正期産の5週間の分娩が母児のリスクが最も小さく、過期産の時期になると胎盤機能低下などにより再び母児のリスクが上昇します。

 さまざまな社会的要因が加わって早産率は上昇し、2007年には約5・8%になっています。それに伴って2500グラム未満の低出生体重児の分娩数は増加してきています。

 このことは、未熟な状態で小さく生まれた児の健康に大きな影響を及ぼし、両親をはじめとした家族に大きな心配と負担をかけてしまうばかりでなく、社会全体にとっても大きな損失となります。そのため、現在の周産期医療にとってこの早産を如何いかに予防するかということが重要な課題となっています。

 早産の原因として(1)さまざまなストレスなどの精神的な要因(2)多胎妊娠、羊水過多(羊水が多い状態)などの機械的な要因(3)子宮内および全身の感染症(4)母体の妊娠高血圧症候群、胎盤の位置異常などの母体・胎盤要因―などが挙げられます。

 早産の原因の大部分は感染が占めており、とくに子宮内の感染が重要で図2に示すように膣(ちつ)から細菌が子宮頸管(けいかん)を通して子宮内に侵入して胎盤・絨毛(じゅうもう)・脱落膜や羊水・胎児に感染し、子宮収縮を引き起こして早産に至ると考えられています。さらに全身のどの部位の感染でも早産の引き金となります。腎盂(じんう)腎炎などの尿路感染、虫垂炎や、さらには歯周病も早産の危険因子となると考えられています。

 その他、早産のリスク要因として早産の既往、喫煙、アルコール、栄養不良、不十分な妊婦管理(未受診妊婦)などが挙げられています。

 早産の要因の一つに多胎妊娠があり、不妊治療とくに体外受精―胚移植が多胎妊娠増加の原因となっていましたが、日本産科婦人科学会では子宮に戻す受精卵の数を原則一つにすることで多胎妊娠を防止し、早産のリスクを軽減するようにしています。

 早産の予防をするには何よりも早産の兆候を早く捉えることが重要です。臨床症状としては子宮収縮、骨盤の違和感、背部痛・下腹痛などの痛み、帯下(おりもの)の変化、母体発熱、子宮の圧痛などが挙げられます。このような症状の自覚がある場合には速やかに受診していただく必要があります。

 早産の兆候がある切迫早産の診断には内診に加えて写真1に示すような経膣超音波検査を用いて子宮頸管長の測定・子宮口の観察や胎児性フィブロネクチンという胎児や羊水中で特異的に高い値を示す物質を母体の膣内で測定する方法などを補助的に用いて診断を行っています。

 切迫早産と診断された場合には、妊娠継続が望ましくない場合(胎児状態が悪い場合、重症の胎児発育不良を認める場合、重篤な子宮内感染を認める場合、母体が出血性ショックに陥っている場合、妊娠中の痙攣(けいれん)発作である子癇(しかん)や重症の妊娠高血圧症候群を引き起こしている場合など)を除くと入院安静の上で切迫早産の治療を行います。治療には塩酸リトドリンや硫酸マグネシウムといった子宮収縮抑制薬を用いますが、いずれの薬剤もさまざまな副作用があり、注意して使用していきます。感染が疑われる場合には抗生物質を用います。さらに、児の成熟を促進させる目的で母体に副腎ステロイドホルモンを投与することもあります。

 早産の予防の治療を行っても残念ながらすべての症例を妊娠37週(正期産の時期)まで持たせることは困難です。万一分娩になった場合には、新生児医療の専門医に新生児の管理・治療をお願いすることになります。そのため少しでも新生児が良い状態で生まれるようにすることが重要で帝王切開による分娩が選択されることも正期産より増加します。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2011年09月19日 更新)

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