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ヒトESから肝細胞 人工臓器実用化へ 岡山大グループ 国内初成功

未分化のES細胞から分化した肝臓細胞(核が2つある)の顕微鏡写真

未分化のES細胞

小林直哉助手

 岡山大大学院医歯薬学総合研究科消化器・腫瘍(しゅよう)外科学の小林直哉助手らのグループは、三日までに、どんな細胞にも成長できるヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から肝臓細胞をつくり出すことに、国内で初めて成功したことを明らかにした。重症の肝不全患者ら向けに開発中のバイオ人工肝臓の実用化につながる成果。八日から岡山市内で開かれる日本再生医療学会総会で発表する。

 国内で唯一、ES細胞の作成が認められている京都大再生医科学研究所から提供を受け、実験した。

 タンパク質の一種で、肝臓の再生などに重要な役割を果たす高濃度の肝細胞増殖因子(HGF)とES細胞を、特殊な薬品と布を使った「足場」で培養。一週間目に変化し始め、二週間後に肝機能の薬物代謝が起きていることや遺伝子などから肝臓細胞に分化したことを確認した。ES細胞の40%が分化していた。同グループは、今回と同じ方法でマウスのES細胞を使って成功し、昨年十二月から実験していた。

 基礎研究の段階だが、同グループは、将来的にはES細胞からつくり出した肝臓細胞を、体外型バイオ人工肝臓に使いたい考え。ただ体内の毒素を分解するには、装置の中に百億個程度の肝臓細胞を入れる必要があり、大量に培養する技術の確立が必要となる。

 小林助手は「今後は細胞を効率よくつくり出す技術や、ヒトに応用する場合の安全性について研究したい」と話している。


一つの壁突破

 赤池敏宏東京工業大教授(再生医工学)の話 実用化までにはまだ時間がかかるが、分化の成功は一つの壁を突破したといえる。ES細胞研究は、高い倫理観が求められる。今後も慎重かつ正確な研究を進めてもらいたい。


ズーム

 ES細胞 受精卵の分裂途中で一部を取りだしたもの。心筋や神経などさまざまな細胞、組織に分化する可能性がある。倫理的な問題があるため、研究には高いハードルを設けており、文部科学省専門委員会と学内倫理委員会の審査をそれぞれ経なければならない。現在、全国10施設で25計画が承認されている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年03月04日 更新)

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