文字 

岡山市がん対策推進条例を生かすには

「地域で患者を支える体制づくりを」と語る田端委員長

 高齢化を背景に、今や日本人の2人に1人が患う「がん」。がん対策基本法の制定など国全体でがん医療の充実が図られる中、岡山市では昨年4月、議員提案による「市がん対策推進条例」が全国の政令市で初めて施行された。10月には学識経験者や患者らでつくる専門組織での具体策の審議も始まり、市の今後の取り組みに注目が集まる。

--------------------------------------
条例の概要

予防から在宅療養まで網羅


 岡山市がん対策推進条例が目指すのは、「適切ながん医療をすべての市民が受けられるように」し、「市民ががん患者となってもお互いに支え合い、安心して暮らすことのできる地域社会」を実現すること。そのための市、保健医療関係者、市民がそれぞれに連携して取り組むべき対策の基本的な方向性を打ち出している。

 盛り込まれた項目は、予防・早期発見や患者らの負担の軽減、緩和ケアや在宅療養の推進など幅広い内容。個別には、がんの正しい知識の普及啓発や情報の提供▽がん検診の受診率・質の向上▽がん患者や家族に対する相談体制・支援の充実▽緩和ケアに関する専門的な知識・技能を有する医療従事者の育成▽緩和ケアや在宅療養のできる体制の整備―などを明記した。

 市は今後、条例に基づいて設置した「市がん対策推進委員会」での意見や提言を踏まえ、より具体的な施策を検討する。

--------------------------------------
患者や家族の悩み

今後の不安、副作用、医療費… 解消へ問われる市の本気度


 実際に患者や家族らはどのようなことで悩んでいるのか。

 がん診療連携拠点病院の一つ、岡山済生会総合病院(岡山市北区伊福町)によると、2010年度にがん相談支援センターや医療相談窓口などで受け付けた相談件数は計555件。内容は今後への漠然とした不安感、受診・入院に関する質問、治療の副作用や後遺症の懸念、医療費や生活費について…など多岐にわたっている。

 他の医療機関にかかっている患者からの相談も多く、同センターの医療ソーシャルワーカー金田美佐緒さんは「悩みの大きな背景には、医療者と患者のコミュニケーション不足がある」と指摘する。うまく質問のできない患者、納得いく説明ができない医師などケースはさまざまだが、これが、結果として主治医に対する患者の不満や不信につながる。医療機関を転々とする、いわゆる“がん難民”も、不十分な意思疎通が要因の一つだ。

 一方で、相談者のおよそ3分の2は家族や知人ら本人以外が占める。同病院では長年、緩和ケアに取り組んできたこともあり、「他県で暮らす子どもから『地元の親を緩和ケア病棟に入れたい』という相談もある」と看護師長で同センターの相談員も務める岡田美登里さんは話す。

 がんは治療法が進歩し、かつてのように“がん=死”ではなくなりつつある。とはいえ、治療期間は長期におよび、通院治療の比重が高くなっている。そのため寄せられる相談には退院後の通院治療に関するものも目立つ。「経済的負担が続くことへの不安。さらに、抗がん剤治療を受ける場合、まだ病院は限られており、遠隔地の患者にとっては通院のための足の確保も大変」と金田さん。「働き世代の場合は就労の問題が深刻。治療費がかさむ中、働けずに収入は減っていく」

 市の条例施行で、これらの悩みはいったいどれほど解消に向かうのだろう―。同病院の木村秀幸・副院長は「全国の患者会などからは『岡山市は独自の条例を作ったんだってね』と今後に期待する声が届いている。現状が少しでも良くなるかどうか、市の本気度が問われる」とした上で、「市民にがんやがん医療について理解を深めてもらうよう、市は積極的に学習機会を提供したり、市民が取り組むべきより具体的な行動なども示してほしい」と提案する。


--------------------------------------
田端雅弘推進委委員長
(岡山大学病院腫瘍センター長)に聞く

相談・情報提供の拠点づくりを


 岡山市がん対策推進条例の施行で期待される今後の市の役割について、岡山県内のがん診療連携拠点7病院などでつくる「県がん診療連携協議会」の事務局担当で、市がん対策推進委員会の委員長を務める田端雅弘・岡山大学病院腫瘍センター長に聞いた。

 ―条例では予防から在宅療養まで、幅広いがん対策の推進がうたわれている。

 県に同様の条例がない中で、市の条例ができたことはとても評価している。ただ、がん医療を充実していく上で求められる対策には、学校での教育や医療従事者の育成といった国・県全体で行うべきもの、市単独では難しいものも多い。条例を生かすためには、役割分担を考えながら、市だから動きやすいというものから取り組んでいくべきだ。

 ―具体的には。

 がん患者の中には大きな病院で診断、治療を受けた後、次の行き場がなくなって“迷子”になってしまう人も少なくない。例えば長崎市は市の医師会と協力し、がん患者らが住み慣れた地域で安心して療養を続けていけるよう、医療・介護・福祉の総合相談窓口を設けている。ここでは緩和ケアや在宅医療に関する啓発・情報提供も行い、医療機関や介護事業者などとの連携にも力を入れている。岡山市にも、在宅で療養するにはどうすれば良いか、経済的な支援制度にはどのようなものがあるかなど、幅広い相談や情報提供の拠点となるような総合窓口が必要ではないか。

 ―困った時、取りあえずそこに行けば“次”につながる。

 それぞれの拠点病院にも相談窓口はあり、もちろん頑張っているが、やはり一つの病院の情報には限界がある。市がマネジメントすることで、市全体、地域全体で患者をサポートする体制につながる。個人的な意見だが、市が北区北長瀬地区に2015年度の開院を目指している「岡山総合医療センター(仮称)」にその機能を持たせるということを検討しても良いのではないかと思う。

 ―岡山市、さらに県全体のがん医療の充実につながるような審議を望んでいる。

 市が動けば、県全体のがん医療が変わるきっかけになる。ぜひ市には市内の拠点病院をはじめ、中小の医療機関や訪問看護ステーション、介護事業者などとの連携にも音頭をとってもらい、「地域でがんを診る」モデル都市になってほしい。われわれもしっかり審議を重ね、より良いがん医療の実現に向けた提言をしていきたい。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年01月16日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ