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(1)歯グキからの出血 朝日医療専門学校岡山校校長・ベル歯科衛生専門学校校長 渡邊達夫

 わたなべ・たつお 1968年大阪大歯学部卒。広島大歯学部助教授、岡山大歯学部教授などを経て2004年岡山大歯学部長。09年から朝日医療専門学校岡山校校長、11年からベル歯科衛生専門学校校長。NPOお口の健康ネットワーク理事長も務める。

 ほとんどの人が歯グキから血が出る経験をしたことがあるだろう。この出血、血液が血管の外に出ることだが、特に赤血球が血管の外に出ると赤くなるので出血したと分かる。歯周病にかかっている場合は、赤血球が出る前に白血球や血漿(けっしょう、血液から血球を除いたもの)が血管の外に出る。体の中で細菌などを見つけるとまず白血球がそこへ集まっていく。赤血球より大きい白血球は、血管の壁にくっついてからアメーバのように細胞の形を変えて、血管を作っている細胞と細胞の間から外へ出る。だから、出血することなく、抗体や白血球が血管の外に出て感染が起こらないように働いている。感染が起こると、毛細血管の細胞と細胞の間が広がって白血球は簡単に血管外に出て、そこに集まるが、赤血球が出るまで血管が広がることはない。こんな時にその部位に刺激を与えると赤血球が毛細血管から飛び出して、出血してしまうのである。

 出血には内出血と外出血がある。血液が血管の外に出ても、上皮がしっかりしていれば内出血だ。歯グキからの出血は外出血である。上皮が破れているので、血液が流れ出てしまう。潰瘍を起こしているのである。歯グキの出血は、毛細血管の細胞と細胞の隙間が大きく開いていて、赤血球が簡単に外に出られる状態になっており、さらに、歯周ポケット(歯と歯肉の隙間)が潰瘍を起こしているのである。消化管の潰瘍と言えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍が有名だが、これらも激しい場合は吐血や下血があり、時には口臭もする。

 通常、一番表にある上皮細胞には細菌がいっぱい付着している。時には細胞と細胞の間にも細菌がつくこともある。しかし、上皮は一番深い所の細胞が常に分裂して、新しい細胞が先輩の細胞を外側へ押し出す。一番外側の細胞は押し出され、はがれていってしまう。その時、周りに無数の細菌をつけたままはがれ、胃の中へ流されてしまう。はがれた跡は、細菌がついていない新しい細胞が顔を出す。このように最も外側の細胞がはがれることによって、われわれの身体は細菌の感染から守られている。人間の身体で外界と接する所はすべて、この原理で感染しないようになっている。胃、十二指腸、大腸、肛門、気管支に肺などもそうである。

 上皮細胞のはがれる時間が長すぎたり、細菌の勢いが強すぎたりすると、上皮細胞の層は薄くなり、潰瘍になってしまう。歯グキからの出血の場合、胃潰瘍や十二指腸潰瘍と同じように考えられるが、潰瘍面が歯垢(しこう、プラーク)と言う細菌の塊に接しているのが問題である。傷ができている所に細菌の塊があるのは、体にとって非常に不利である。歯周病の人の場合、手のひらぐらいの潰瘍ができていると言う人もいる。この状況を知り、対処できれば、もっと健康な生活が送れるだろう。

 若いころには歯グキから血が出ていたが、中高年になると出血しなくなったと言う人もいる。歯周ポケットの潰瘍面は、病気が進むにつれて深部にまで進んでいく。浅い部分は上皮が再生されているので、普通に歯を磨いた程度では出血することはない。自分で歯磨きしても出血しないが、専門家に磨いてもらうと出血するのは、潰瘍ができている所にまで、歯ブラシの刺激が届いてないからである。自分でしている歯磨きで歯グキから血が出なかったとしても、歯周病が進んでいることも多い。

 さて、歯グキからの出血を治す方法として、一番勧められるのが歯ブラシの毛先で歯グキをつつくことである。消しゴムを使うときの力加減で歯ブラシを持ち、1カ所あたり10秒から20秒ぐらいつつくと効果がある。この刺激で上皮の一番深い所にある細胞が増え始め、1週間から10日ぐらいで歯グキからの出血が止まる。

 詳細については「岡山大学歯学部予防歯科」または「NPOお口の健康ネットワーク」のホームページを参照のこと。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年02月20日 更新)

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