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オフポンプの冠動脈バイパス手術 心臓病センター榊原病院 都津川外科部長に聞く

都津川敏範外科部長

 天皇陛下が2月に受けられた心臓の冠動脈バイパス手術は「オフポンプ手術」で行われた。人工心肺を使わず、心臓を動かしたまま血管をつなぐ方法で、体への負担が少ないという。心臓手術で国内有数の実績を誇る心臓病センター榊原病院(岡山市北区丸の内)で、心臓血管外科の都津川敏範外科部長にオフポンプ手術の利点などを聞いた。

 冠動脈は心臓の表面を走り、心臓を動かす心筋に酸素と栄養を送る。狭心症は動脈硬化が原因で血管が狭くなる「狭窄きょうさく」が見られ、さらに詰まって心筋が壊死えしするのが心筋梗塞。国内の心臓病による死者は2010年約19万人と、がんに次いで多く、中でも狭心症、心筋梗塞といった虚血性心疾患が最も多い。

 虚血性心疾患の外科療法が冠動脈バイパス手術。全身麻酔をし、胸を約20センチ切開。血管造影検査などで確認した血管病変の先に、自分の胸や腕、脚などから採取した血管で迂回うかい路を作り、血流を確保する。「髪の毛より細い糸で、内径1~2ミリの血管を血液が漏れないよう正確に、素早く1カ所約10分で縫う」

 手術は心臓の動きを止め、人工心肺を使って血液を体外循環させながら行う方法が世界の標準。だが、国内ではオフポンプ手術が約6割と主流。心拍動下で、スタビライザー(安定化装置)を縫合部位周辺につけ、揺れを抑えて行う=図参照。

 都津川部長によると、オフポンプ手術は脳梗塞などの合併症発生率が低く、出血も少ないため、動脈硬化の強い症例や高齢者には有利。だが「縫合部位が全く動かないわけではなく、手術の難度は高くなる」とし「心機能が落ちていたり、血圧が不安定な人は人工心肺が必要。長期成績はどちらの術法でも差がない」と付言する。

 榊原病院では11年、他の手術を伴わない単独バイパス手術は124例で、うちオフポンプ手術が92例(74%)。心臓血管外科の吉鷹秀範副院長、都津川、田村健太郎両外科部長が執刀しており、手術は3~5時間、入院は2~3週間程度。

 岡山県内で、オフポンプ手術は倉敷中央病院が11年、単独バイパス手術46例のうち28例(61%)に実施。川崎医大病院、岡山大学病院、国立病院機構岡山医療センター、津山中央病院も行っている。

 一方、虚血性心疾患では、バイパス手術以上に、局所麻酔で体への負担が軽い心カテーテル治療が普及している。脚の付け根や手首の動脈から細い管・カテーテルを入れ、冠動脈の病変部で風船を膨らませ、血流を確保するステント(金網状の筒)を留め置く。

 04年に再狭窄を抑える薬剤溶出ステントが保険適用され、治療技術や器具が向上。カテーテル治療が増え、榊原病院でも11年は914例と、バイパス手術の7・4倍に上る。しかし病変が左冠動脈の根元部分や何カ所にもある場合は、バイパス手術が適するという。

 都津川部長は「カテーテル治療技術の進化に伴い、治療法の選び方は複雑になった。循環器内科と心臓血管外科医が協議し、各症例に応じたベストの治療法を決めるのが大事」と話す。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月05日 更新)

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