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(7)妊婦と糖尿病 妊娠前から検査し治療 岡山大産科・婦人科学教授 平松 祐司

 わが国の糖尿病人口は急増し、40歳以上の3人に1人が糖尿病または糖尿病予備群であり、糖尿病はわが国の国民病といってよい状況にあります。妊娠糖尿病も増加傾向にあり、2010年の妊娠糖尿病診断基準改定により、妊婦の約10%が何らかの「耐糖能異常」と診断される時代になりました。

 妊娠糖尿病は「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常である」と定義され、少し程度の重いものは妊娠時に診断された明らかな糖尿病と呼びます。このほかに妊娠前から糖尿病の診断がついている場合があり、これらを合わせて耐糖能異常と呼びます。

 耐糖能異常合併妊娠の管理目標としては、(1)妊娠中の母児の合併症=表1参照=の予防(2)母児の将来の糖尿病、メタボリック症候群予防―があります。

 合併症の中の奇形は、妊娠してからの治療では遅く予防できません。従って、妊娠を計画している女性、特に糖尿病家族歴、肥満、巨大児出産既往、35歳以上といったリスク因子を持っている人は、妊娠前に耐糖能異常の有無を検査しておく必要があります。そして、糖尿病が発見された場合には、妊娠許可基準=表2参照=に達するように治療し、計画妊娠することが重要です。

 血糖値の指標となるヘモグロビンA1c(HbA1c)は値が高くなればなるほど奇形の発生が増えるため、できれば6%未満を目指します。血圧は正常、眼底検査で単純網膜症までの病変であることを確認し、腎臓も腎臓の機能を調べるクレアチニン・クリアランスなどを検査し、表2の範囲に保たれていることが望まれます。

 妊娠したら妊娠初期と妊娠中期(妊娠24~28週)の計2回、耐糖能異常のスクリーニング(ふるい分け)検査を受けましょう。妊娠初期は見逃されていた糖尿病発見のために、妊娠中期はインスリン抵抗性といって血糖値を下げるホルモンが効きにくくなり、妊娠糖尿病が発症しやすくなるために検査が必要です。

 妊娠中は厳重な血糖管理が大切であり、食前血糖値が血液1デシリットル当たり100ミリグラム以下、食後2時間は同120ミリグラム以下を目標として管理します。まず食事療法を行い、高血糖を予防し血糖の変動を少なくするために4~6分割食にします。食事療法の一例を表3に示します。

 食事療法だけで血糖管理目標値にならない場合は、インスリンを使用して血糖調節を行います。また、定期的に超音波検査で胎児発育、羊水量を検査し、赤ちゃんが大きいときは肩甲難産に注意します。糖尿病妊婦では妊娠32週ごろから突然、子宮内胎児死亡を起こすことがあるため厳重管理し、問題がある場合は入院治療が必要です。

 分娩ぶんべん時期、分娩方法は血糖管理状態、胎児発育をみて決めます。インスリンを使用している人では、分娩後は急速にインスリン必要量が減少するので、血糖値をみながら量を調整します。妊娠糖尿病では、産後6~12週でブドウ糖負荷試験を行い、再評価してもらいましょう。妊娠糖尿病の人が将来、2型糖尿病発症になる危険率は、正常妊婦さんの7・43倍と報告されています。このため、糖尿病予備群の「境界型」と診断された人は3~6カ月ごとに、正常型でも最低年1回の検診を受けましょう。

 このように糖尿病、妊娠糖尿病は母児の一生に影響するため、正しい知識を持ち、妊娠前・妊娠中・出産後を通じた管理が非常に大切です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月05日 更新)

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