文字 
  • ホーム
  • 特集・話題
  • 医のちから
  • (37)統合失調症の薬物療法 慈圭病院 武田 俊彦副院長(53) 副作用改善の第2世代薬 効果持続の注射剤に注目

(37)統合失調症の薬物療法 慈圭病院 武田 俊彦副院長(53) 副作用改善の第2世代薬 効果持続の注射剤に注目

医学生時代は岡山大学有志の「三俣診療班」に加わり、夏の北アルプス登山者を現地で支えた武田副院長。治療を通して、統合失調症の患者と家族を支えている

 長身でがっちりした体格。元アルピニストは、現在もアウトドア派を自任する。

 岡山大学での医学生時代は、北アルプス登山に熱中し、自転車で四国や九州を1周。今でも、自宅と病院の往復20キロを自転車で行き来する。遠回りして、距離が30キロに伸びることもたまにある。

 お酒も大好き。

 「せっかく体を動かしてもね、元通りになってしまうんですわ」

 こんな“人間くさい”精神科医師は、統合失調症も専門にする。

 幻覚や妄想といった陽性症状と、感情の動きが少なくなったり活力さに乏しくなる陰性症状が、共に現れる。大体100人に1人がかかるとみられているが、発症の仕組みは完全には解明されていない。脳の中で生み出されるドーパミンやセロトニンといった、神経伝達物質のバランスが取れていないためと、考えられている。

 このため、バランスを調節することが必要になる。「副作用が前よりだいぶ改善され、処方も単純化しました」。薬物療法だ。

 リスペリドン(一般名)やアリピプラゾール(同)など計6種類から選び、使っている。薬の系譜を見るとどれも、1990年代半ば以後に登場したいわゆる「第2世代」。手の震えや細かな動きができにくいといった錐(すい)体(たい)外(がい)路(ろ)症状が、以前の第1世代より少ない。

 一般的に、かつての処方では、2種類以上(多剤)を使うことが多かった。薬の性能が良くなかったためだが今は、武田の場合、1種類(単剤)を基本としている。

 「大切なのは患者が服薬を続けること」と強調する。大部分の統合失調症は慢性に経過し、途中でやめると再発リスクが高まるからだ。

 こんなデータもある。再発した患者の場合、「治った」と判断された後に薬をきちんと飲み続けたとしても、軽重問わず何らかの症状が2年以内に現れる確率は15〜20%。ところが、途中でやめた場合は5倍の75〜100%に跳ね上がり、しかも重症化するという。

 服薬を自分で管理し続けることは、簡単そうに見えて難しい。

 そこで注目しているのが、飲み薬でない注射(デポ剤)。1回の注射で4週間は効果が持続するとされ、武田の患者の中には、9週間に1度もいる。「服薬管理は、患者以外に支える家族も気を使う。毎日飲まずに済み、気遣いを和らげるのにも効果があります」

 高校卒業後、いったん工学部建築学科に進学。医学生時代は、登山や自転車だけでなく、精神分析関係の書物に夢中になった。進路変更も読書傾向も、人間自体に大きな興味があったから。

 「ほとんど世間話のよう」と冗談めかす診察は、神経を研ぎ澄ませる瞬間である。

 仕事や学校での出来事から浮かび上がる患者の悩みを聴きながら、陽性、陰性各症状の軽重だけでなく、周囲と良好な関係(適応状態)を保っているかどうかも把握している。なぜなら、統合失調症の患者は、症状だけでなく「生活上の不適応」(不適応状態)で困っていることも多いからだ。

 薬物療法を始めると、患者の陽性、陰性の各症状は改善傾向をたどる。ただ、この各症状のバランスは、適応、不適応の各「状態」と深く関わる。バランスが取れていれば適応状態だし、そうでなければ不適応状態となる。

 状態が薬物療法の中でどう変化するかは、患者によって異なる。「当初不適応だったが適応に戻る」例もあれば、「最初から適応」の場合もある。

 注意が必要なのは、症状が改善しているのに「適応から不適応に一時的に陥る」ケース=図参照。陽性、陰性の各症状のうち、陰性症状優位の改善を示すケースで時折みられる。その場合、薬の種類を変えたり、別の薬を補う併用療法を行い、できるだけ短期間で不適応を好転させる。

 症状の改善を図るだけでなく、患者の満足度・健康感(ウェルビーイング)も高める―。薬物療法をそう意義付けている。患者の人生に寄り添う責任は重いが、仕事の原動力となる思いがある。

 「患者さんの心は純粋です」

 回り道して精神科医師に道を定めた選択は正しかった。武田はそう確信している。 (敬称略)

-------------------------------------

 たけだ・としひこ 津市出身。岡山大学医学部卒。1988年に慈圭病院に赴任し、神戸市立西市民病院を経て93年から再び慈圭病院。

-------------------------------------

 統合失調症への対処 「早期発見、早期治療」がポイント。統合失調症を含めた精神病に至る初発前の段階で薬物療法や認知行動療法を行った場合、武田副院長は「初発患者と比較して治療効果は高い」と言う。

-------------------------------------

 薬の副作用 第2世代の場合、肥満や高血糖、高脂血症のほか、無月経や性欲減退と関連する高プロラクチン血症が指摘されている。この「代謝性副作用」は薬の種類により出やすかったり、少なかったりする。

-------------------------------------

 外来 武田副院長の外来は、初診(毎週金曜日)の場合、予約が必要。慈圭病院生活福祉支援室に申し込む。再診は毎週火曜、木曜日。

-------------------------------------

慈圭病院

岡山市南区浦安本町100の2

電話 086―262―1191

メールアドレス

hospital@zikei.or.jp
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月02日 更新)

タグ: 精神疾患慈圭病院

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ