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期待される訪問看護 医療と介護連携、在宅療養の要に

【写真左】「龍人が悲しむから」と笑顔を絶やさない王治さん一家。訪問看護師(両端)も終始、龍人さんに優しく言葉を掛け、和気あいあいとした雰囲気の中で時間が過ぎていく【同右】瀧村太郎さん(右)とストーマの状態を確認し、パウチを交換する看護師の三宅さん。夫婦二人の病状に応じて主治医やホームヘルパーにも連絡を取る

訪問看護の重要性を訴える木村丹・岡山県医師会専務理事

電話を受ける徳永さん

 今月から診療報酬と介護報酬が改定され、医療と介護の連携による在宅サービス強化が打ち出された。切れ目ない連携を実現するための要と期待されるのが「訪問看護」だ。看護師らが病気や障害のある人の家を訪れ、療養の世話や診療の補助を行う。訪問看護の現場を訪ねた。

□利用の現場□ 人工呼吸器や人工膀胱… 医療依存度高い人支える

 「もしも訪問看護がなかったら、きっと息子は家に帰れなかった」。自宅近くで中華そば専門店「仙助」を営む王治昌明さん(53)と美幸さん(50)夫妻=赤磐市町苅田=はそう振り返る。

 2008年、一緒に働いていた長男の龍人さん(24)が交通事故に遭い、その後、寝たきりに。病院ではHCU(高度治療室)にいたが、兄に代わって店を手伝う長女の二奈代さん(21)を含めて「家族そろって暮らしたい」(昌明さん)との思いは強く、在宅での療養を選択した。

 とはいえ、店を続けながら、人工呼吸器を装着するほど医療依存度の高い龍人さんを世話することに、当初はやはり不安もあった。それを支えたのが、呼吸器装着者の在宅看護経験を持つ「みつ訪問看護ステーション看護協会」(岡山市北区御津金川)の江田純子所長(55)だった。

 ステーションの看護師や在宅医、ホームヘルパーらで体制を整え、日ごろのケアから家族が介助しやすい寝具選び、病院でのカテーテル交換のスケジュール調整まで全面的にサポート。幸い病状も落ち着きを見せ、病院を出てからすでに1年2カ月がたつ。

 「入院先では『この状態で家に帰るなんて』と反対もされた。でも、本人の頑張りはもちろん、周囲の支援があれば在宅療養はできる。本当に選んで良かった」。王治さん一家の思いだ。

◇ 瀧村太郎さん(89)と一恵さん(84)=岡山市北区=は夫婦二人暮らし。ともに重い疾病を抱え、訪問看護を頼りにしながら在宅生活を続けている。

 太郎さんは2001年に膀胱(ぼうこう)がんで膀胱を摘出した後、脱腸を患っておなかのストーマ(人工膀胱)周辺が大きく変形。尿をためるパウチ(袋)の交換が難しくなったこともあって、04年に岡山訪問看護ステーション看護協会(同市中区竹田)に依頼した。一恵さんはパーキンソン病が進行、リハビリ目的で08年から訪問を受ける。

 どちらも合併症があり、体調の急変はしばしば。看護師の三宅美津江さん(47)は「病状の観察などを通じてお二人の生活状況を見ながら、家で安心して過ごしてもらうよう心掛けている」と話す。

 太郎さんは「夜中の出血や妻の様子がおかしい時など緊急時には看護師さんが駆けつけてくれる。なくてはならない存在」と感謝の言葉を口にする。

木村丹・岡山県医師会専務理事に聞く 医師の指示下、医療的処置も

 早島町にある有床診療所の院長として地域医療を担い、「訪問看護コールセンターおかやま」開設にも尽力した木村丹・岡山県医師会専務理事に話を聞いた。



 ―訪問診療などを行う開業医という立場から、訪問看護をどうとらえているか。

 入院日数が短縮化する一方、ケアを受けられる施設には空きがなく、医療の必要度が高い人も家で過ごす場面が多くなっている。しかし、適切なケアや指導を受けなければ、病状が悪化することになりかねず、在宅での療養を進めていく上で訪問看護は欠かせないサービスだ。ホームヘルパーらが訪れる「訪問介護」と混同されがちだが、医師の指示の下、医療的処置ができる点が大きく違う。

 ―果たす役割が大きいにもかかわらず、訪問看護は事業所数・利用者数ともに伸び悩みが指摘されてきた。岡山県の現状は。

 都道府県別の利用状況では、岡山はちょうど平均に位置している。つまり、潜在的なニーズはまだまだあるはずで、本来ならもっと利用されて良い。訪問介護との混同もそうだが、県民や医療者の中でも訪問看護に対する認識は十分とは言い切れないのが一因と思われ、その重要性や必要性についてもっと理解を深めてもらうことがコールセンター開設の狙いの一つでもある。

 ―末期がんなどで最期を家で迎えたいと望んでも、家族の負担などを懸念して諦める人が少なくない。在宅での看取(みと)りへの対応も重要になっている。

 国の人口動態統計によると、2010年に全国で亡くなった119万人のうち、医療機関で最期を迎えた人は8割を超える。一方、在宅は1割余にとどまり、これは欧米諸国に比べて突出して少ない。ただ、団塊の世代の高齢化などを背景に、亡くなる人の数は今後急速に増えると見込まれており、医療機関の受け入れにも限界が来るだろう。医師と連携した訪問看護師が中核となって、さまざまな介護職や専門職に支えられながら、希望する人が住み慣れた環境で最期まで暮らし続けるための体制づくりが急がれる。

コールセンターおかやま ネットワーク広げ橋渡し役に

 県民への情報提供や関係機関の連絡調整などを図る「訪問看護コールセンターおかやま」(岡山市北区兵団)に昨年9月の開設以降寄せられた電話件数は、延べ187件(3月末時点)に上る。

 相談者の内訳は訪問看護ステーションが68件(36・4%)と最も多く、ステーション以外の介護関連機関41件(21・9%)、医療機関28件(15・0%)、本人・家族27件(14・4%)―など。本人・家族以外からは、ステーションの運営や利用者の受け入れに関する問い合わせが目立つ。

 本人・家族からは「点滴をしてほしい」「一人は寂しいので、入院中の主人に帰って来てもらいたい」といった利用の希望だけでなく、生活の不安や苦労を打ち明けるがん患者や介護者らもいる。

 センターは県内のステーションや医療機関などの情報を集約しており、「今後もネットワークを広げ、利用者と関係機関、また関係機関同士の“橋渡し役”になれれば」と相談員の徳永千栄子さん。長年の看護師経験を踏まえ、「どんな内容でも、受話器の向こうの一人一人に寄り添える温かな対応を心掛けたい」としている。

 コールセンターは086―238―7577。月~金曜日の午前9時~午後5時半。

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 訪問看護 医師が必要と認めれば、お年寄りから乳幼児まで年齢に関係なくサービスを利用できる。訪問看護ステーションや医療機関の看護師のほか、ステーションからは保健師、ケースによっては理学療法士や作業療法士らも訪問する。利用を希望する際は、かかりつけ医や近隣のステーション、ケアマネジャー、「訪問看護コールセンターおかやま」などへ相談を。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月16日 更新)

タグ: 介護福祉医療・話題

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