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(10)岡山県の周産期医療成績 日本一めざし病診連携 岡山大産科・婦人科学教授 平松 祐司

 今回が最後ですので、岡山県の取り組みについてお話しします。岡山県では周産期医療の成績を日本一にすべく岡山産科婦人科学会、県産婦人科医会と協力し種々の試みを実施しています。その一つは2006年から、岡山大学病院で実施している周産期オープンシステムです。

 リスクの高い妊婦さんは妊娠20週までに登録し、妊娠35週までは特に異常がなければ、近くの診療所で健診を受け、36週からは大学病院で健診します。分(ぶん)娩(べん)を医療体制の整った大学病院ですることによって、より安全なお産をしていただくことをめざしています。また、入院施設を持たない診療所の先生にもこのシステムを利用してもらっています。分娩時には、診療所の先生に立ち会ってもらうことも可能です。

 09年からは県と協力し、全分娩施設を対象とした妊産婦死亡、周産期死亡、早期新生児死亡、重症症例の調査を始めました。報告された症例を周産期センターのメンバーで検討し、改善すべき点、今後検討すべき点を抽出して現場の医師へ還元しています。

 岡山県の周産期医療成績の現状をみると、出生数は1975年の3万102人をピークに漸減傾向にあり、09年は1万6387人、10年は1万6759人でした。妊娠22週から生後1週未満の間に赤ちゃんが死亡することを周産期死亡といいますが、95年以降ほぼ横ばいで、全国平均より若干よい成績で推移しています。09年は全国で24位、10年は6位の成績でした。

 周産期死亡のうち、子宮内胎児死亡は09年は52例、10年は42例でした=表1参照。その原因あるいは合併症は表2の通りです。今後、子宮内胎児死亡を減少させるためには、高頻度のもののうち胎児発育不全、常位胎盤早期剥離、多胎妊娠、羊水量の異常、前期破水などに注意を払う必要があります。

 10年の子宮内胎児死亡と児体重の関係をグラフに示します。グラフの上下の実線の間にあるのが望ましいのですが、その下方にある発育不全児が多いのが分かります。発育不全があるときは、早めに高次施設で原因究明を受け、胎児の成長、健康状態を超音波検査や胎児心拍数モニタリングなどで管理しながら、分娩のタイミングを決定する必要があります。多胎妊娠も種々の合併症が起こるため、早い時期から高次施設で管理することが望まれます。

 常位胎盤早期剥離は、早い時期に子宮の中で胎盤が剥がれてしまう病気です。妊娠後半期に切迫早産症状(性器出血、子宮収縮、下腹部痛)と同時に異常胎児心拍パターンを認めたときは本疾患を疑い、超音波と血液検査を行うことが必要です。妊婦さん自身が行う胎動計測については、効果ありとする報告となしという報告があります。しかし胎動異常を感じたとき、すぐ受診していれば救命できた可能性のある症例もあり、胎動には注意してください。

 妊娠中の悪心(おしん)・嘔吐(おうと)、胃部不快感、風邪症状は怖い病気の始まりであることがあります。前回(4月2日付メディカ参照)説明したように自分のリスク評価を行い、また何かおかしいと思ったら素人判断せず医師に相談しましょう。10回にわたってお話ししたことを参考に、妊婦さん一人一人が妊娠中の健康状態に配慮し、元気な赤ちゃんを出産されることを願っています。

 =おわり=
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月16日 更新)

タグ: 女性お産岡山大学病院

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