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私の道しるべ 光生病院 理事長兼院長 佐能量雄

 大学受験に失敗して浪人していたある夏のこと、本棚の合格祈願のお札が光っていると感じたことがあった。医学部2年生の時、突然まわりの空気が澄みわたり、心が清められたような気がしたこともある。そんな経験から、少しは信心深くなったと思う。

 1998年ごろ、作家五木寛之さんの講演で「生老病死苦」という観音経の一節にある言葉を知り、「元気」という著書に出合った。人の一生は弱肉強食の恐怖の世に生まれ、老いに悲しみ、病気で苦しみ死を迎えるという大変重い解釈だったように覚えているが、元気とは宇宙から引き継ぎ、天の後押しを受けた明るく生きるエネルギーと記されていた。大変気に入って、私が理事長を務める社会福祉法人ことぶき会の創設した施設に「げんき」と名付けた。

 その他、自分に大きく影響し好きになった言葉として「思いやり」(人のことを考える力)や米国の詩人サミュエル・ウルマンのいう「青春」(人生のある若い時期ではなく、老いを恐れず勇気をもって挑戦する期間を指す)もよく使っている。昨年、ブータンのワンチュク国王が来日し国民総幸福論を紹介されたが、その時の竜の話も大変興味深い。私たちの心の中には人格という名の竜がいて、経験を食べて育っていく。うまく育てて強く大きく成長してください―と。

 最近、医療と福祉では地域住民と職員が互いに満足して幸せと感じることが必須条件と考えるようになった。地域総幸福論である。幸い病院や施設を開設するチャンスに恵まれており、ぜひ、それぞれの心の中の竜を大きく育てたい。そればかりでなく、あらゆる困難に対して地域や施設にすむ竜もうまく育てて、元気と思いやり、幸せと青春がいっぱいの施設にし、地域に慈しみに満ちた、さわやかな風を吹かせたいと思っている。

(2012年2月9日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年02月09日 更新)

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