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憧れの福祉 光生病院 理事長兼院長 佐能量雄

 介護では、デンマークが世界一という。介護施設のスタッフは、利用者1人に対して1人というぜいたくさ。スタイルはあくまで住居であり、医師も看護師も白衣を着けていない。生活スペースも個人の所有分が40平方メートルという広さだ。ちなみに、スウェーデンは30、フランスは23、日本は18平方メートルである。

 イタリアには、音楽家のためのリタイアメントハウス、「ベルディハウス」がある。音楽に生涯をささげた人のために、作曲家ベルディが基金とともに創設した。石造りの重厚な建物で7、8年前に見学し、中からオペラの歌声やピアノ演奏が聞こえてきたのには驚いた。ちょうど、香川県直島町に特別養護老人ホームを開設したころで、ぜひ日本にも絵画や備前焼、音楽など芸術家のための老人施設を造ろうと思ったことを思い出す。

 フランスは、利用料は少々高めで、アルツハイマー専用棟が別棟になっていた。医療色が濃く、老年科の専門医が臨床心理士や作業療法士らとともに、中等度の介護度の利用者を中心にした自立支援に力を入れ、そのまま日常生活が送れるような施設を目指していた。インテリアは、まるでパリ・シャンゼリゼ通りのカフェやブティックを思わせる装飾が施され、大変魅力的であった。

 日本では、ドイツを参考に2000年より介護保険がスタートしている。施設は、老人保健施設やサービス付き高齢者向け住宅などいろいろあり、利用者には少々分かりづらいが、居宅介護支援事業所で相談して介護度に合った施設が勧められる。設備的には、ユニットケアと呼ばれる全室個室で、居間や食堂、和室コーナーなど共有スペースの充実した施設が増えてきた。後は哲学だ。

 人生の大切な終盤をいかに安心で安全、かつ幸せに過ごせるか? 優しさを競い、人を思いやる心を磨き、地域にお年寄りを大切にする文化を根づかせる。よりよく生きるためにも、元気なうちにやるべきことは多い。

(2012年3月22日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月22日 更新)

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