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祈り  光生病院 理事長兼院長 佐能量雄

 生涯忘れられない話の一つに、渡辺和子ノートルダム清心学園理事長が米国の修道院で修行していた時の逸話がある。人一倍真面目に皿洗いをしていた時、修道僧長から何を考えながら仕事をしているのか尋ねられ、日本人の誇りを持って「無心です」と答え、ひどく怒られたそうだ。

 「そのお皿を使った人の幸せを祈りながら皿洗いをしないといけない」と教えられた。自分が祈ったくらいで、本当にお皿を使った人が幸せになるのだろうか? どう考えてもそんなはずはなかった。では、何が変わったのか? 祈りが、自分自身の時間の質と価値を変えたという話だ。

 父の後ろ姿を見て何の迷いもなく医師になり、光生病院の後を継ぎ、40歳を超えようとした時、生涯を懸けた大借金をして、近代化設備整備事業に挑んだ。そして教えの通り、昼夜をいとわず医療と介護で社会に貢献しようと四苦八苦しているうちに、はや赤いちゃんちゃんこを着る羽目になった。

 知らず知らずのうちに多くの人に助けられ、地域に支えられ、患者さまからたくさんのことを教えていただいた。天から命を授かった患者さまに、病気やけがを機に、あらためて神様への感謝の気持ちを知った命と健康をプレゼントできる病院にしたいと思う。

 残り少なくなった時間を有意義に、と考えているうちに思い出したのである。「祈り」こそ時間の質と価値を変えることができると。くしくも60歳の年男で 辰 ( たつ ) 年、雲竜昇天というわけにもいかず、今年はうるう年でもあり四国八十八カ所の逆打ち参りに出かけることにした。

 4年に1度の逆回りは御利益も数倍と聞く。力不足でご迷惑をかけたり、十分に期待に応えられなかったことへのおわびと、今まで実力もないのに育て守り支えてくれた多くの方々への感謝、そして、いま一度のチャンスとご指導をお願いする祈りを続けてみたい。

(2012年3月29日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年03月29日 更新)

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