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想定外の出来事 岡山赤十字病院 院長 忠田正樹

 院長職の1年目が大過なく過ぎようとしていた、昨年3月11日の午後3時前。岡山市内での会議が終わり、病院に戻ったところ、院内が何やら騒がしい。聞けば、東北地方で大きな地震があったという。さらに、当院が災害時の医療支援に備えて編成する「救護班」に日赤岡山県支部から待機命令が出たとのことであった。

 赤十字の「救護班」の編成は医師、看護師、事務調整員など数名からなり、当院では常時9個班の人員を任命している。

 テレビに映し出される想像を絶する津波の光景に現実感を失っていた矢先、日赤本社から当院の救護班に「出動命令」が出た。「こんな状況の場所に行って何ができる?」と一瞬考えたが、全国の赤十字病院の救護班が東北各県に集結するという。同時に2010年に協定を結んでいた、県の要請で出動する「おかやまDMAT(ディーマット)」(災害拠点病院の災害派遣医療チーム)へも出動要請が発せられたのである。

 同日午後7時40分。当院の救護班員5人と県支部職員2人の計7人を乗せた2台の車両が暗闇の中、はるか遠くの東北を目指して出発した。二十数時間後、福島県の日赤県支部に到着したが、まさに「想定外の出来事」。現地は大混乱し、集結した各救護班への指揮命令系統も混乱を極めたという。加えて直後に原発事故が発生。先発した救護班の無事を祈るばかりであった。

 当時、「想定外」という言葉がしばしば使われた。しかし、大地震にしても、大津波にしても、大自然の営みは、とても人智の及ぶところではなく、すべてを想定できるものではない。従って「想定外の出来事」は、いずれ起こり得ることだと、われわれは覚悟しておくべきである。

(2012年4月10日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年04月10日 更新)

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