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肺がん 命を守る禁煙と検診 岡山県の現状は

清水病院長(左端)が担当する禁煙外来。南橋さん(右端)は隣の同僚とともに、禁煙にチャレンジし成功した=岡山労災病

 肺がんは、岡山県内のがん別死因でワーストです。禁煙と検診が命を守る上で重要になると、専門家は話します。31日の世界禁煙デーを前に現状を調べました。

補助薬処方と5回の診察 「目覚めの1本」は禁物

■禁煙外来

 肺がんを減らす最も効果的な方法は禁煙。国立がん研究センター(東京)はそう指摘します。紫煙をくゆらす人が減りつつある中、禁煙外来の門をたたく人もいます。病院長自身が担当する岡山労災病院(岡山市南区築港緑町)を訪ねました。

標準手順

 「ひとまずは成功ですね」。4月下旬、病院職員の南橋薫さん(54)は、清水信義病院長から最終診断を告げられると、ほっとした表情を見せました。かつて1日約20本吸っていましたが、清水病院長の勧めで一念発起し約3カ月間、禁煙外来を受診してきました。

 ここでは、日本循環器学会を含む4学会による標準手順に従い、禁煙補助薬を受診者に処方し、計5回の診察を行います。判別テストでニコチン依存症と診断され、1日の喫煙本数に喫煙年数をかけて200以上の人が対象で、費用は保険適用となっています。

 南橋さんは受診中、飲み薬の禁煙補助薬(商品名チャンピックス)を服用する一方、次第に減っていく日々の喫煙本数をノートに記録。診察日は、たばこに含まれる有害物質一酸化炭素の濃度(呼気中)を測り、体内にどれだけ残っているのかをチェックしました。

 受診中、吸いたくなると「ここで吸わなくても」と我慢。吸い殻に火をつけた時もありましたが、何とかゴールにたどり着きました。「禁煙成功のポイントは習慣性を断つこと。1〜2カ月に1本吸ったとしても、やめようと思えばやめられる」と振り返ります。

依存症

 清水病院長は呼吸器外科が専門で、これまでに2千件以上の肺がん手術を担当しました。「原因の半分は喫煙。特に、男性に多い扁(へん)平(ぺい)上皮がんの場合は、90%近くを占めていました」と明かします。

 喫煙は肺がんだけでなく、各種のがんや虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)、脳卒中などの発症リスクも高めます。禁煙しようと思ってもやめられないのは、煙に含まれるニコチンへの依存症によると考えられています。

 ニコチンが体内に入ると、満足感が得られる神経伝達物質ドーパミンが脳の中で放出されます。本数を重ねるのは、体がこの満足感を持続させようとするためで、ニコチンが切れるといらいらが募ります。南橋さんの飲み薬は、自動車を運転しないことが服用条件ですが、ニコチン切れの症状を軽くさせる効果があります。

 禁煙挑戦中に吸いたくなった時の対処法は、あるのでしょうか。

 禁煙外来担当の保健師星島百合さん(38)=日本禁煙学会認定指導保健師=は「深呼吸したり冷たい水を飲んだりして、気持ちを紛らすこと」と助言します。特に朝は、睡眠中に補われなかったニコチンを体が欲しがりますが「目覚めの1本は禁物」。勢いづく恐れがあるからです。

減少する喫煙率

 全国の禁煙外来受診者の成功率を、厚生労働大臣の諮問機関(中央社会保険医療協議会)が09年度に調べました。1〜5のいずれかの回数を受診した計3471人について、それぞれの治療終了から9カ月後も禁煙していたのは29・7%。5回受けた1231人だと、49・1%でした。

 清水病院長は「ヘビースモーカーほど禁煙は難しいようですが、禁煙外来は効率よくやめられる方法。自分には無理かも、と思わずトライしてください」と呼びかけます。

 日本の喫煙率を見ると、禁煙の後押しになるかもしれません。厚労省の国民健康・栄養調査(10年)によると、男性32・2%、女性8・4%。年々、減少しています。

毎年受診が発見の鍵 欠かせない精密検査

■市町村の検診

 検診は早期発見、早期治療の鍵と言えますが、受診率は高くなく、その後の精密検査(精検)を受けない人も少なくありません。

厳しい数字

 検診は、健康増進法といった各種の法律に基づき、住んでいる市町村や職場などで行われています。最も身近と言える市町村の検診を見てみましょう。

 県健康推進課によると、2009年度の県内全27市町村の平均受診率は33・4%(対象者約54万4千人)。全国平均は17・9%ですが、担当者は「厳しい数字」と受け止めます。50%以上とした県がん対策推進計画の目標と開きがあるからです。市町村別では、最高は86・8%(奈義町)で、最低は18・6%(総社市)。岡山市は32・8%でした。

 受診しない理由は何でしょうか。こんなデータが参考になりそうです。内閣府が、肺がん以外も含むがん全般の全国調査(07年)で尋ねると、(1)たまたま(2)健康に自信がある(3)心配なときはいつでも医療機関を受診できる―が上位に挙がり、「時間がなかった」「面倒」もありました。

 厚生労働省研究班の肺がん検診ガイドラインで、外部評価委員を務めた県健康づくり財団付属病院(岡山市北区平田)の西井研治病院長はこう話します。「40歳以上の人は検診を毎年受けてほしい。肺がんは進行が早いだけに、2年に1回では意味がありません」

「根拠あり」

 市町村の検診では、二つの方法の併用が一般的です。このうち胸部エックス線撮影(エックス線)では、がん細胞と疑われる陰影の有無を見ます。たばこを多く吸う人には、たんの中に微小ながん細胞が交じっていないかを調べる喀(かく)痰(たん)細胞診が加わります。

 岡山など4県で過去行われた研究では「(併用による)検診を受けた人は受けていない人より、肺がんの危険が41%小さかった」(西井病院長)との結果が出ています。ガイドラインも「死亡率を減少させた根拠がある」と推奨しています。

 精検や人間ドックで使われるコンピューター断層撮影(CT)は、エックス線より高性能で、ミリ単位で病変を察知できると言われています。ただ、エックス線より被ばく量が多く、採用したことで死亡率が減ったと言える確かなデータが、今はないのも確かです。

 矢掛町は「発見できる確率が高い」(町健康管理センターの担当者)として10年以上前に、検診方法にCTを加えました。CTのメリットとデメリットを住民に伝え、エックス線かCTかを選んでもらうとのことです。11年度は、エックス線受診者は1884人、CTは346人でした。

目標90%以上

 県と県の専門家委員会は3月、市町村の検診の質を高めることを狙って初めて行った「精度管理調査」の結果(09年度実績)を公表しました。

 受診率や要精検率などの5指標のうち精検受診率では、目標値を90%以上、許容値を70%以上としています。県内全27市町村の平均は73・6%。約4分の1が、肺がんが疑われながら放置している計算です。許容値を割ったのは6市町(岡山、総社、新見、里庄、奈義、美咲)でした。

 西井病院長は「検診をきっかけに肺がんと診断されて治療した場合の5年生存率は60%で、早期だと85%に高まります。何もせず自覚症状が現れてから治療した場合は15%」と説明します。早期発見、早期治療のためには検診を本人が有効活用することが大切ですが、市町村による精検対象者のフォローも重要になるでしょう。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月21日 更新)

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