文字 

進む慢性腎臓病対策 岡山市、岡山大など中心に取り組み

今後のCKD対策について話し合う前島教授(左)と中瀬保健所長

 21世紀の新たな国民病ともいわれる慢性腎臓病(CKD)の早期発見、治療に向けた取り組みが、岡山市や岡山大などを中心に進められている。従来の専門医とかかりつけ医による「病診連携」に加え、同市では特定健診で患者を独自に把握し、受診を呼び掛けている。透析療法が必要な末期腎不全への進行を食い止める診療システムづくりを目指す。

 岡山市は2011年度、40歳以上の同市国民健康保険加入者が対象の特定健診で、CKD診断のため血中の老廃物・クレアチニン値の測定を独自に開始。重症化が懸念される患者には医療機関の受診を、予備軍には保健師による保健指導を受けるように呼び掛ける文書の送付を始めた。

 クレアチニン値の測定は08年度、国の制度変更で自治体健診の必須項目から外され、同市でも一時は除外された。だが、高齢化などで膨らみ続ける医療費の抑制に向け、「CKD対策に効果あり」として復活させた。

 11年度は計1156人に文書を送付。中瀬克己・同市保健所長は「受診を勧奨した市民の約3割から電話相談などがあった。少しずつ病気への理解が広がっている」とする。

有病率22・8% 

 一方、岡山大は11年11月、診療体制強化に向けて専門の寄付講座を開設した。CKD患者は心血管疾患(CVD)との関連が強いとされるため、前島洋平教授(腎臓専門医)と吉田賢司助教(循環器内科専門医)が運営。岡山市とも協力し、16年までに岡山ならではの診療モデル「CKD・CVD地域連携システム」構築を目指す。

 その取り組みの一つとして、岡山市が特定健診で得た患者の検査データ(匿名)の提供を受け、これまでに8千人超の分析が終了。CKD有病率は22・8%で、高齢になるほど割合が高まることが分かった。メタボリック症候群や高血圧などとの関連も見つかっているという。

 さらに、同大病院内では腎臓内科と循環器内科が連携。心疾患既往者はCKDを合併すると心疾患再発の危険性が増すため、積極的なCKD診断で再発を予防する。

115施設に拡大 

 成人の8人に1人はCKDとされ、国内の推計患者数は予備軍を含め1330万人に上る。対する腎臓専門医は約3600人にすぎず、診療にはかかりつけ医との病診連携が不可欠だ。

 岡山市では5年前、市内6病院の専門医とかかりつけ医らで「OCKD―NET」(代表世話人・槇野博史岡山大病院長)が発足した。互いに顔の見える関係づくりに向け、専門医の経歴や専門分野を記したプロフィルをかかりつけ医に配布。日本腎臓学会が示す専門医への紹介基準を周知したり、セミナーを開催するなどしてきた。

 「NET」に参加するかかりつけ医は発足当初の28施設から115施設にまで広がり、年間30~40件だった双方の紹介件数は130件に増加。腎不全患者の食い止めに一定の成果を上げている。

 前島教授は「多方面の取り組みを深化させて優れた診療モデルをつくり、県内、全国に普及させたい」としている。

 慢性腎臓病の診断 尿、血液検査などで行う。性別や年齢、血中の老廃物・クレアチニンの値から、腎臓が血中の老廃物をどのくらい尿へ排出できているかを示す糸球体ろ過量を推算。この推算糸球体ろ過量(eGFR)の数値で腎機能の低下の度合いを評価する。評価は5段階で、最も悪い腎不全が「ステージ5」。eGFR推算式は慢性腎臓病が多い欧米人用に開発され、これを基に日本人用が2008年にできた。6月には関連学会がステージを細分化した新たな評価基準を示す予定。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年05月28日 更新)

カテゴリー

ページトップへ

ページトップへ