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(1)うつ病とは(典型的なうつ病) 万成病院理事長・院長 小林建太郎

 こばやし・けんたろう 1979年川崎医大卒。川崎医大病院精神科講師、万成病院副院長などを経て2001年から現職。精神科専門医、認知症臨床専門医、岡山県病院協会岡山支部会長、岡山県精神科病院協会理事。

 「このところ、どうもいつもと違うんです。何か体がダルくて…。年のせいでしょうか朝早く目が覚めて、寝た気がせん。起きるとフラフラして…、頭が重くて胸も圧迫感があって…、内科で診てもらったんですが検査は異常ないと…。食欲もないんです。何を食べてもおいしくなくて、朝はほとんど食べられません。ここ1カ月で4キロやせて…」

 Aさんは46歳の大手企業にお勤めのサラリーマン、先日奥さまに連れられて当院外来を受診されました。表情は乏しく、沈うつでボソボソ小さな声で話されます。

 さらにお困りの事を尋ねていくと、しばらく沈黙の後、「申し訳ないんです、部下に。半年前に課長になり頑張って、いろいろ成果が出てきているのに…。アイデアが浮かばんのです。集中もできんのです。いらいらしてしまって…。好きだったテニスも誘われてもとても行く気になれない…、頑張らんといけんのは分かっとんですが…。申し訳ない。この忙しいときに、会社にも家族にも…。つくづく自分は価値のない人間じゃないかと…」。

 このケースは典型的なうつ病と思われます。うつ病は最近増加している精神科疾患で、誰でもかかる可能性がある脳の病気です。世界的にみても人口の3%ぐらいに発病するといわれており、決して珍しい病気ではありません。通常は一過性の経過をとり完全に回復しますが、治療しないと症状が半年ぐらい続くことが多く、早期発見、早期治療が重要です。

 うつ病は脳内の神経伝達物質のバランスの乱れから起こってくると考えられており、感情病ともいわれるように抑うつ気分や興味・喜びの減退などが中心となる症状です。診断にあたっては患者さんの表情や話し方を参考に、多くの精神科医は診断基準に沿って判断します。代表的な診断基準であるDSM―IV(米国精神医学会の精神疾患の分類・診断基準)を表に示しましたが、Aさんもほとんどの項目が当てはまると思われます。

 ただ注意しないといけないのは誰でもつらい事、ショックな事があれば気分は落ち込むのは当然です。いつも心が健康な人はいません。単なる落ち込みとうつ病では持続期間と程度に差があります。抑うつ気分が2週間以上続き、就労困難となったり家事もできなくなればうつ病を考えます。加えて、午前中にブレーキがかかり夕方になると動けるような症状の日内変動や早朝覚醒はうつ病に特徴的とされています。

 もうひとつ、Aさんのケースでも分かるようにうつ病では多彩な身体症状が出現するために「身体の不調」として自覚されることが多く、内科を転々として適切な治療に結びつかないケースがあります。「うつ病では?」と疑ってみることも重要です。うつ病に出現しやすい身体症状を図に示しました。

 性格に関しては、まじめ・きちょうめん・仕事熱心・責任感が強いといったタイプの人がうつ病になりやすいといわれており、なかなか割り切って休めないタイプの方はひとりで抱え込まないこと、頑張りすぎないこと、たまには自分を褒めるようにしてください。

 今回の「うつを知る」シリーズはうつ病について正しい知識を持っていただくため、10回の予定で、県内の医療機関で臨床に携わる精神科医が診断・治療・経過・具体的な接し方などテーマごとに執筆します。次回は清水義雄・万成病院副院長による「新型うつ病」です。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年06月04日 更新)

タグ: 精神疾患万成病院

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