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(2)こどもの森の第一歩 倉敷中央病院小児科部長 桑門克治

くわかど・かつじ 大分県立佐伯鶴城高、京都大・同大学院卒。島根県立中央病院を経て、2001年12月から現職。日本小児科学会専門医、日本腎臓学会専門医、京都大医学部非常勤講師。

 さあ、ではまず新生児・乳児の森をのぞいてみましょう。すると、元気な産声をあげて生まれた赤ちゃんたちにも、いくつかの“医療行為”を行っていますね。元気なのになぜ? と、ちょっと意外に思われるかもしれませんね。もう少し、近くで見てみましょう。

新生児眼炎

 昔々、生まれてきた赤ちゃんの目にばい菌がついて、赤ちゃんの目の病気“新生児眼炎”を起こし目が見えなくなってしまうことがありました。目が見えなくなるのを防ぐために、生まれてすぐにばい菌をやっつける抗菌薬の入った目薬を点眼するようになりました。

黄疸と新生児
マススクリーニング(タンデムマス)

 血管に針を入れたり、踵(かかと)の近くに傷をつけて、血液を採っていますよ(採血)。赤ちゃんの皮膚に傷をつけて、なんてひどいことをと思われるでしょう。でもこれから大事な検査(血液検査)をするのです。血液検査はいくつかの目的で行いますが、多いのは、黄疸(おうだん)の程度のチェックと新生児マススクリーニング検査です。

 黄疸というと大人では肝臓の病気の知らせですね。皮膚や白目のところが黄色くなります。しかし、赤ちゃんではどの子にも出てくる症状のひとつです。ですから、赤ちゃんの黄疸は生理的(病気ではない)黄疸と呼ばれ、自然に治まります。でも何らかの理由で、黄疸の原因となっている血液の中のビリルビンの濃度が異常に高くなると、脳組織に沈着して障害を起こすことがわかっています。このため、大丈夫な程度の黄疸かどうかを採血してチェックしているのです。

赤ちゃんの黄疸

 酸素を運搬する赤血球の中にはヘモグロビンが含まれています。ところが、生まれるまでは「胎児型ヘモグロビン」と呼ばれるヘモグロビンが主体です。これは酸素の少ない「胎盤循環」と呼ばれるお母さんのおなかの中の環境で酸素の受け渡しに都合の良い働きをします。

 生まれてくると、今度は肺で酸素を取り込む「肺循環」に都合の良い「成人型ヘモグロビン」に入れ替わります。このとき、使われなくなった大量の胎児型ヘモグロビンが処理されて、ビリルビンという色素になります。これが皮膚や眼球や口の中の粘膜の黄色く染まった黄疸として観察されるわけです。

 さて、もうひとつは新生児マススクリーニング検査ですね。これは、食べ物や飲み物からの栄養素を体の中で上手に処理できない先天代謝異常や、ホルモンの異常である内分泌の病気を調べます。もし、特定の栄養素を処理できない先天代謝異常があれば、その栄養素を含まないミルクや食事を摂(と)ります。ホルモンが足りなくてショック状態になったり、脳を含めた発育が遅れる病気もあります。しかし、これもホルモン剤を飲むことによって症状が出るのを防ぐことができるようになってきました。

 余談ですが、マススクリーニング検査でわからない先天代謝異常の病気のうち、赤ちゃんでも緊急に血液浄化(透析も含まれます)=イラスト参照=が必要となることがあります。こうした特殊な治療ができるのは中国四国地方ではごく限られています。特殊な治療のため、県外からヘリコプターで倉敷中央病院まで搬送されてくることがあります。こどもたちが後遺症なく安定して無事に元の病院に戻られるときは、われわれ小児科医にとってもうれしいひとときです。

ビタミンK

 あれあれ、今度は赤ちゃんに薬を飲ませていますよ。赤ちゃんに何の薬を飲ませているのでしょうか。それはビタミンKという大事な薬なのです。ビタミンKは肝臓が血を固めるためのタンパクを作るのを手助けしてくれる大事なビタミンです。生後2?3カ月になるとおなかの中の常在菌が作ってくれますが、それまでは不足することがあります。かつては日本で年間200人前後の赤ちゃんが突然に頭で出血が起こり、亡くなったり後遺症が残ったりしていました。自宅で飲んでくださいね、とお渡しした薬はぜひ確実に飲ませてあげてください。10倍以上の量を飲まない限り副作用はありませんので、飲んですぐに吐いてしまったときには飲みなおしをするよう受診してくださいね。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年06月18日 更新)

タグ: 子供倉敷中央病院

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