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「胃ろう」岡山でも広がる 少ない苦痛で栄養投与 正しい知識の啓発不可欠

胃ろうの仕組み(図)

梶谷伸顕・岡山PEG研究会代表世話人

 病気で食べ物をのみ下すことができない高齢者らに、腹部に穴を開けて胃へ直接栄養を送る「胃ろう」。鼻からチューブを通し栄養を送る経鼻管挿入に比べ、患者の苦痛が少なく、在宅ケアも容易などメリットも多い。内視鏡手術で胃ろうを造設する「PEG」と呼ばれる技術の一般化に伴い、岡山県内の医療機関でも取り入れる動きが広がっている。

 津山市内の老健施設に入所する女性(99)は一年前、誤えん性肺炎で津山中央病院(同市)に入院。自力で栄養をとれなくなったため、胃ろうを造設した。

 その後退院し一年後に再び来院したときには、女性は車いすで移動し医師に笑顔を見せるまで回復、口から食べられるようになり、栄養不足が一因の褥瘡(じょくそう)も改善していた。

 「高齢化率の高い県北では、在宅、施設での患者のQOL(生活の質)向上のため、特にPEGのニーズが高いと思う」と同病院の平良明彦・内科副部長。同病院のPEG造設件数は、二〇〇〇年の十七件から〇五年には百五十七件と急増、県内でもトップクラスだ。

多いメリット

 脳血管障害などにより、自力で食事できない患者への栄養補給法としては胃ろうのほか、鼻からチューブを通す経鼻管挿入や、胃腸を通さず注射で血管に直接栄養を送る静脈栄養がある。

 よくみられる経鼻管挿入は、手術が不要だが患者の痛みが激しく、療養中何度も自分で引き抜いてしまう欠点がある。そのため手足を縛らざるを得なくなることもあり、苦痛が増すことになる。

 一方胃ろうは、患者にとって苦痛が少ないだけでなく、経鼻管より交換間隔が長く、引き抜かれる心配がほとんどないなど介護者にとってもメリットが多い。

 PEGに取り組む医師や看護師らでつくる岡山PEG研究会代表世話人の梶谷伸顕・藤田保健衛生大七栗サナトリウム助手(元岡山大第二外科)は「着けたまま食事訓練や入浴もでき、リハビリが容易。訓練で機能が回復すれば、もちろん取り外すこともできます」と説明する。

高まるニーズ

 全国組織のNPO法人・PEGドクターズネットワーク(PDN)に加盟している医療機関は現在全国に八百五十六。うち岡山県二十四、広島県三十三、香川県十六の病院が登録している。国内では年間十万人以上の患者がPEGで胃ろう造設を受けており、高齢化社会、在宅医療の流れからも、さらにニーズが高まることが予想される。

 岡山PEG研究会の梶谷代表世話人は「PEG自体は難しいものではないが、あくまで手術。安易な増加はリスクを高め、『PEGは危険』という印象を与えかねない」と、患者の容態に応じた適用の必要性を訴える。

 また介護分野などへの普及啓発もこれからのテーマの一つ。「ケアに携わる看護師やヘルパー、市民にも正しい知識を広める活動をしたい」と話している。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2006年03月25日 更新)

タグ: 健康介護高齢者

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