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(43) 背骨の腫瘍 岡山大学病院整形外科 田中 雅人准教授(48) 脊髄圧迫、しびれやまひ 緻密な手術でQOL向上

明るくエネルギッシュな田中の喜びは、患者からの感謝のひと言。「回復する姿を見ると医者冥利(みょうり)に尽きます」と話す

 重ねた数字は、「手術した患者が治る姿を見るのが好き」であることの証しと言える。

 岡山大医学部を卒業後、父親譲りか、手先が器用なこともあって整形外科医に。これまでに手がけた手術は7500を数える。母校の准教授を務める田中雅人が得手とする分野の一つが、手術の難度が高い“背骨のできもの”の脊髄腫瘍だ。

 一般的に言ってこの病気の数はそう多くない。年間約1千の手術を行う岡山大学病院整形外科においても、20例といったところ。命を脅かすには至らない良性が多いのだが、問題は「生活の質(QOL)を著しく低下させかねない」ことだ。

 脊髄は、脳からの指令を手足などに伝える回路で、脊椎の真ん中を走る。大きいものでは「タラコのような」腫瘍が神経のそばにできて圧迫することで、手足で痛みを感じたり、しびれが起きたりする。症状が進行すれば、手足のまひが起きることもある。「歩けなくなって車いす状態で来院し、そのまま緊急手術というケースも珍しくありません」

 ダメージを受けた脊髄を圧迫から解き放ち、痛みやしびれなどの諸症状を改善させるQOL向上を大きな目的とする手術では、腫瘍付近の背中を縦に切開する。腫瘍が潜む脊椎の奥へとメスを進め、病変を取り除く。専用の顕微鏡を使いながらの緻密な作業が続く。

 脊髄腫瘍は、場所により複数のタイプがある。田中が多く手がけるのは、脊髄とそれを覆う硬膜の間の「硬膜内髄外腫瘍」であり、全体の8割を占める。手術で脊髄を損傷する恐れが低く、1~2時間で終わる。

 脊髄の中にできる「髄内腫瘍」は数こそ少ないが、手術では慎重の上にも慎重を期す。脳を電気で刺激させて脊髄に電流を流す脊髄モニタリングを実施して、手術が脊髄を不必要に痛めていないか安全を確認しながら手術を行う。腫瘍と正常部分の境目を見極めて切除するときが、5~6時間の手術の中で「最も緊張する瞬間」だ。

 背骨が曲がった側彎症・後彎症の脊柱変形に、痛みやしびれで歩きづらくなる腰部脊柱管狭きょう窄さく症も含め、脊椎・脊髄関連の手術を年約170例行う。さらに週80~60人の外来診療や研究、医学生教育にも情熱を注ぐ。多忙な中でも「最善を尽くす」をモットーとする田中を語る上で、2人の師の存在は大きい。

 地域医療の最前線に初めて立った栗林病院(高松市栗林町)の上司だった川下哲=現・図南病院(高知市)整形外科部長=と、30代で脊椎脊髄外科の修練のために赴任した国立病院機構岡山医療センター(岡山市北区田益)の整形外科診療部長中原進之介である。丁寧な口調の分かりやすい説明と、夜を日に継いで重ねる手術。患者本位の姿勢をたたき込まれた。

 「患者が自分の妻や子どもだとしたら、どうしますか。答えはいつも一つですよ」

 そう考えるからこそ腕を磨き、休日も手術室に立つ。「若い時から家族には迷惑をかけてきた」と話す田中。家族の話に及んだ時、その目はひときわ優しくなった。(敬称略)

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 たなか・まさと 愛媛県立三島高、岡山大医学部卒。栗林病院、岡山市立市民病院、国立病院機構岡山医療センターなどを経て、岡山大学病院整形外科講師。2010年から現職。趣味は海外旅行と「かなりはまっている」映画観賞。

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 背骨の仕組み 体の大黒柱の役割を果たす背骨は、脊椎(脊柱)を指す。首付近からお尻辺りにかけて並んでいる計約30個の「椎骨」で構成され、位置に応じて頸椎(けいつい)、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎に分けられる。一直線でなく、所々で体の前や後にカーブしている。

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 椎骨と脊髄 椎骨の一つ一つを上から見ると、円形をした空間の「椎孔」がある。椎骨が連結することで、椎孔は全体として「脊柱管」という“パイプ”をつくる。脳とつながる脊髄はこの中を通っており、椎骨の連結部分のすき間「椎間孔」から運動神経や知覚神経が手足に向けて走行している。

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 外来 田中准教授の外来は毎週火、木曜日の午前。初診の場合、受け付けは午前9時〜同11時半。

岡山大学病院

岡山市北区鹿田町2の5の1

電話 086―223―7151(代表)

ホームページ

http://www.onitaiji.com/spine/

http://www.okayama−u.ac.jp/user/hos/seikei.html
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月16日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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