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長生きと腎不全 岡山済生会総合病院 副院長 予防医学部長 腎臓病・糖尿病総合医療センター長 平松信

 わが国は世界一の長寿国となり、また透析医療の進歩につれて高齢透析患者数は増加の一途です。2011年末の慢性透析患者は30万人を超えていて、1年間に約3万9千人が透析導入となっています。透析導入患者の平均年齢は67.8歳であり、最も割合が高い年齢層は男女とも75~80歳です。2025年には透析導入患者の約半数が75歳以上の高齢者であると予測されています。

 腎機能は加齢とともに低下して、80歳を過ぎると若い頃のおよそ50%となることから、長生きをするとすべての人が慢性腎不全となる可能性があると言えます。腎不全が進行し、腎機能が生命の維持に必要なレベル以下に低下してくると、腎移植か透析療法が必要となります。

 透析療法には、血液透析と腹膜透析の二つがあり、多くの人はどちらの治療法も選択可能です。わが国の血液透析と腹膜透析はともに世界一の医療レベルにあります。二つの透析療法を、ヨットの帆とボートのエンジンにたとえて説明しています。

 腎臓の働きを助けるためにヨットのように帆をつけるのが腹膜透析であり、モーターボートのようにエンジンをつけるのが血液透析です。透析導入前の慢性腎不全(保存期腎不全)の時期には、二つの腎臓で透析にならないように最善の努力(ボートを漕ぐこと)をして尿を出してきました。ヨットの帆をつけて風の力で不足分の腎機能を補いながら続けてボートを漕ぐ腹膜透析は、透析導入後も尿量が保持されやすい治療法です。一方、血液透析は力強いエンジンに任せる治療法です。すなわち、尿量が保持されやすい腹膜透析は血液透析の前にすると、そのメリットが大きいとされています。最近では80代、90代の腹膜透析導入が増えています。そして、多くの高齢者が腹膜透析をしながら天寿を全うしています。

 さらなる高齢化に向けて、腹膜透析などの在宅医療の普及は、わが国の医療のあるべき姿とされています。長生きをして、たとえ腎不全となっても住み慣れた自宅で余生を過ごすことは、高齢者の願う生き方と思われます。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月18日 更新)

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