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「人工網膜」を開発 岡山大大学院グループ

松尾、内田両准教授が開発した(右から)人工網膜フィルムと原料となる光電変換色素、ポリエチレン粉末

松尾俊彦准教授

内田哲也准教授

 岡山大大学院の松尾俊彦・医歯薬学総合研究科准教授(眼科)と内田哲也・自然科学研究科准教授(高分子材料学)らのグループは、目の網膜に異常をきたした患者を治療する「人工網膜」を開発した。ヒトを対象とした臨床研究の準備を進めており、視力低下や視野が狭まる網膜色素変性症の患者ら10人程度の治療を予定している。

 グループの人工網膜は、光を電気信号に変換するという光電変換色素を使い、神経細胞の働きを代替する仕組み。不要な添加物を入れず不純物を除去したポリエチレンフィルムの表面に林原(岡山市)が開発した光電変換色素を結合。厚さは30マイクロメートル(マイクロは100万分の1)で、1ミリ角に100億個以上の色素を固定する。

 治療は5〜10ミリ角程度の大きさで実施。グループによると「体内に入っても分解せず、毒性はない」という。

 食品包装などに使われるポリエチレンフィルムは化学的に安定しており、表面に他の物質を結合させるのは難しい。内田准教授らはフィルム表面の連続する分子鎖を特殊な処理でわずかに断ち切り、色素と結び付ける手法を確立した。

 動物実験では人工網膜を入れた網膜色素変性のラットに、動く白黒模様を見せたところ、目で追うしぐさを頻繁に見せた。網膜にある神経細胞が刺激され、視覚が回復していることを確認した。

 内田准教授は製造装置の開発や製造工程の構築をほぼ終了。生産した人工網膜の品質が均一かどうかをチェックする体制の確立に取り組んでいる。共同研究は2002年、内田准教授が所属する教室の島村薫教授(現名誉教授)と松尾准教授が始めた。

 安全性と治療効果を確かめる臨床研究は原則無料で実施。治療に必要な手術、入院費などを調達するめどは立っていないが、松尾准教授は「治療を希望する患者さんも既におり、1年以内に学内の倫理委員会に申請、治療を始めたい」としている。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月21日 更新)

タグ: 岡山大学病院

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