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急性合併症 非造血系免疫が関与 岡山大出身の医師ら解明

 岡山大病院血液・腫瘍内科出身で、豪州クイーンズランド医学研究所の小山幹子医師(血液学、移植免疫)らのグループは、白血病や悪性リンパ腫の治療で行う骨髄移植後に起こる急性合併症に、従来考えられていた血液(造血)系だけでなく、非血液系の免疫反応が深く関与していることを動物実験で突き止めた。発症原因の一端を解明したことで、新たな治療法の開発が期待される。 

 急性合併症の疾患名は「移植片対宿主病(GVHD)」。骨髄移植は拒絶反応を極力避けるため、白血球の型(HLA)が一致するドナー(提供者)を探すが、その確率は兄弟間で4分の1、非血縁者では数百~数万分の1。今回の研究が進み、GVHDが克服できれば、HLAが不適合でも安全に移植できる可能性が高まるという。

 従来の研究で急性GVHD発症には、血液系の「抗原提示細胞」が特に重要な役割を担っていると考えられてきた。同細胞は、ドナー側の免疫に関わる「T細胞」に患者の体を異物として伝える役目を持つ。

 グループは、この細胞を取り除いたマウスも急性GVHDを発症することに着目。血液系と非血液系の抗原提示細胞を組み込んだマウスで分析した結果、非血液系だけを組み込んだマウスでも発症することを確認した。

 中でもT細胞の一種「CD4陽性T細胞」が原因となって発症する場合、非血液系が関与していることを突き止めた。成果は米科学誌ネイチャーメディシンに掲載された。

 骨髄移植では、ドナー側のT細胞の活動が強くなりすぎるとGVHDが悪化する一方、弱まりすぎると腫瘍への攻撃効果を損なってしまう。その制御は非常に難しいが、研究の進展で攻撃効果を温存、増強させながら、GVHDを最小限に抑える治療法の開発につながるという。

 小山医師は「患者が元の生活に戻れるよう、今後もさまざまな角度からGVHDの研究を続けたい」としている。

ズーム

  白血病と急性GVHD 白血病は骨髄内の造血幹細胞が腫瘍化して発症。人体はウイルスなどの異物が侵入すると、リンパ球内のT細胞が攻撃する免疫機能がある。骨髄移植は抗がん剤で除けない腫瘍細胞をドナー側のT細胞で根絶させるのが目的だが、同時に患者の体を“敵”と認識して攻撃、拒絶反応としてGVHDが起こる。急性GVHDは白血球の型を一致させた骨髄移植でも、2割程度の患者で1カ月以内に発症。「CD4陽性型」と「CD8陽性型」のT細胞が関係しているという。症状は肝障害や下痢、皮膚炎などで悪化すれば死に至ることもある。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年07月23日 更新)

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