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機内の宴 倉敷成人病センター 前理事長・総院長 新井達潤

 私はこれまで国際便の機内で意識不明に陥った4人の乗客の手当てをしたことがある。原因は全て脳の低酸素によると考えている。

 国際便は空気抵抗を少なくするために高度1万メートルを飛行する。気圧は地上の約3分の1である。機内外の気圧差が大きいと機体に負担がかかるため、機内圧を0・8~0・7気圧に下げる。当然酸素濃度も地上の70~80%となる。気圧が低いと血管が広がり血圧も下がる。さらに長時間座ると血液が下肢にたまる。つまり国際便では低酸素と低血圧で脳低酸素症準備状態になる。ここにアルコールが加わると血圧はより低下し、また立ち上がると下半身の血液が脳に届かなくなり意識消失につながる。

 1人目、2人目ともご婦人でどちらもトイレに立ち数歩あるいて通路に倒れた。1、2分で脈拍がかすかに触れ、呼吸も認められた。意識は数分で回復した。目的地まで座席に横たえた。

 3人目もご婦人で医師を探す放送が何度も流れた。エコノミーの最後部へ走ると顔は土色で冷や汗でぬれていた。意識はなく呼吸も脈拍(手首)も感知できなかった。乗務員と椅子から抱き上げ通路に横たえ両足を高く持ち上げた。やがてかすかな脈が触れるようになった。

 この時後ろの席にも意識をなくした男性が発見され、同様の手当てをした。2人は意識がはっきりしなかったが空港病院で回復した。皆さん仲間旅行で、機内での宴を楽しんだ結果である。後の2人は酔ったまま意識を消失している。発見が遅れたら危なかった。深酒を避け水分を補い時々足を動かすことが肝要である。

 手当ては頭部を低く保ち(起こさない!)、下肢を高くし脳血流を増やすことである。これで呼吸・脈拍が戻らなければ心肺蘇生を行わねばならない。

(2012年7月28日付山陽新聞夕刊「一日一題」)
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年08月01日 更新)

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