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(11)「つまようじ法」研究、細菌との共生 朝日高等歯科衛生専門学校校長 渡邊達夫

 「つまようじ法」をていねいにやると歯周病は治る。歯の動揺は改善するし、歯グキからの出血もなくなる。歯グキが腫れることもない。だから「つまようじ法」を世間に広げてほしいと頼むと、科学者は「データを出せ」と言う。そこで、動いている歯10本のうち8本の動きが改善したとか、歯肉出血や歯垢(しこう)除去効果は他のブラッシング法よりも明らかに優れているというデータを出しても、「病理組織ではどうなんだ」と言う。科学者の発想は実に自由奔放で、しかも科学的手法をたくさん知っているので、次々と問題点が指摘され、彼らが満足するまでにはいかない。一生懸命データを出しているうちに、彼らの興味は違うテーマに移ってしまう。なぜなら、科学者は新しい発見と論文の数に価値を見いだしているからだ。

 科学者の発想と手法をもらって「つまようじ法」を研究してみると、今まで分かっていなかったことが次々と見えてきた。「歯周病は細菌によっておこる」、これは間違いない。「だから細菌を取り除けばよい」、これも間違いではないが、不可能である。まず、細菌を取り除くことが難しい。

 生まれてすぐの赤ちゃんは無菌状態だが、3~4時間すると赤ちゃんの口の中から細菌を分離することができる。その細菌は空気中に浮かんでいるものであったり、お母さんや助産師さん、看護師さんに付いていたものだったりする。そもそも、46億年前に地球が誕生し、細菌は38億年前に出現し、地球上を覆った。そんな環境下で動物が誕生した。クロマニョン人が出現したのが20万年前だから、人類は地球上では新参者である。地球の今までの歴史を1年間に換算してみてみると、1月1日に生まれた地球に細菌が出現したのが4月上旬ごろ、人類が現れたのが12月31日の午後11時半過ぎになる。今、除夜の鐘が鳴っている。

 そもそも細菌を無くしてしまうなんてことは、無理な話である。先住の細菌と一緒に生きていかざるをえない。赤ちゃんの口の中に入った細菌の大部分は口の中や胃で死んでしまうが、大腸にまで行き着いて数を増やしたのが腸内細菌と言われるもので、この腸内細菌のおかげで動物は健康を維持している一面もある。抗生物質を長い間飲んでいると、消化管の細菌が死んでしまい、身体にカビが生えたり、消化管から出血したりする。こんな事実から考えると、人類は細菌と共生する道を選ぶべきだ。

 は8人の学生さんに協力してもらい、右の上の歯グキは指でマッサージし、右の下の歯はスケーリング(歯石除去)をし、左の上は「つまようじ法」をし、左の下は「つまようじ法」とスケーリングをするという具合に割り振った実験結果である。指でマッサージしただけの部位は、1カ月後のブラッシングで痛みを訴えたのが6人で、歯肉出血したのは8人だった。指で歯グキをマッサージするのは1カ月やっても歯肉炎の予防にはならない。歯科医師が毎日スケーリングをした部位は、8人中5人が痛みを訴え、50%が出血した。「つまようじ法」をすると痛みは消え、出血したのは1人だけだった。

 歯周病の治療と言えば、歯科医院に行って歯石や歯垢を取ってもらうことがほとんどである。それは細菌を除去すればよいと考えているからだ。歯周病の場合はその方法よりも、ブラッシングの方が効果的であることをこの実験は示している。

 ブラッシングによる適度な刺激によって歯グキの細胞は増え始める。すると古い細胞は細菌をいっぱい自分の周りにつけたまま剥がれ落ちていく。これが細菌から身体を守る仕組みである。この仕組みを上手に利用したのが「つまようじ法」だ。さらに、「つまようじ法」で出血しなくなると、歯周病原菌と言われているものが極端に減っていく。なぜなら、歯周病原菌は血液がないと増えることができないからだ。そして身体に害がない細菌が歯周ポケットの中に充満する。歯周病の予防、治療に「つまようじ法」が有効な理由がここにある。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年08月20日 更新)

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