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(5)うつ病の回復過程 希望ヶ丘ホスピタル(津山市)病院長 日笠完治

ひかさ・かんじ 高梁高、岡山大医学部卒。1990年から希望ヶ丘ホスピタルに勤務、2004年から現職。精神科専門医、精神保健指定医・判定医、岡山県精神科病院協会理事、産業医。

 これまで本シリーズでうつ病の診断や治療について説明されてきました。今回はうつ病の回復過程について説明します。新型うつ病についてはシリーズ2回目(6月18日付メディカ)で紹介されており、その回復過程についても個別性が強いので、やはり、普通のうつ病について説明します。

 うつ病の治療の基本は、「休養と充電」であることが前回(7月16日付メディカ)強調されました。私たち精神科医は「休養を担保」し「充電を支援」させていただいているわけです。その治療にあたってはカウンセリングと併せて薬物療法も行っています。

うつ病の短期的な回復過程

 治療により、うつ病が良くなっていく過程については図1のごとくです。治療により初期段階として「イライラ」や「不安」が改善され、中期段階となり「ゆううつ」や「やる気が出ない」気持ちが改善していきます。最終段階になり、うつ病が本当に良くなってくると「喜び」や「生きがい」を感じることができるようになります。

 うつ病の人に、趣味を持つことを勧めたり気分転換を勧めたりしない方がよいと言われますが、趣味や気分転換により感じる「喜び」や「生きがい」は、うつ病が良くなっていく最終段階になって初めて感じられるものなのです。だから、うつ病の人にいきなり最終段階の課題を突き付けてはいけないのです。

 また、うつ病で休職になられた人で、「ゆううつ」や「やる気が出ない」ことが改善すると、早く普通の勤務に戻ろうとされることがありますが、焦りは禁物です。まだ治療の初期段階をクリアしているに過ぎないのです。

うつ病の長期的な回復過程

 うつ病も一般的な病気と同じく、急性期、回復期、安定期に分けられます=図2参照。急性期はうつの症状があらわれている時期です。この急性期の回復過程については前項でお話ししましたが、治療されないとこの期間が6~13カ月間持続します。また、十分に治療された場合でも、ほとんどの人についてこの期間が約3カ月間続きます。この急性期の期間は、特に「休養と充電」を心がけていただくことが大事です。

 また、うつ病は再発しやすい病気であり、急性期は無論のこと、回復期にも再発に留意することが必要です。治療期間を長いと感じ、治療を中断する方がおられますが、再発予防のためには十分な治療期間が必要です。医師から治療終了を告げられるまで治療を続けることは、再発防止のために必要なのです。うつ病になられた方のみならず家族や周囲の方も再発防止ということに留意し支援してあげていただきたいと思います。再発を繰り返すと、ますます再発しやすくなり、うつ病相の期間が長くなる傾向がありますので、できるだけ再発を防止することが重要です。

 以上の治療経過は多少の個人差はあるものの、典型的なうつ病の方にほぼ当てはまる経過です。病初期からの回復には3カ月はかかるものなので、焦らずに「休養と充電」を心がけていただきたいと思います。

 休養期間に焦りが生じたら、単純ですが「小学生の時の夏休みの過ごし方」を思い出してください。「早寝・早起き・朝ごはん」を心がけ、生活のリズムを整えてください。うつ病の方は体力が落ちていることも多いので、余裕があれば午前中は勉強し、午後は軽い運動や遊びに取り組んでみてください。

 うつ病の急性期はとても苦しいものですが、病気を乗り越えた後には、自分や自分を取り巻く物事について新しい発見があると思います。長い治療期間が必要なことをご本人のみならず、ご家族や周囲の人たちに理解していただき、ご支援をいただきたいと思います。
※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

(2012年08月20日 更新)

タグ: 精神疾患

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